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「柳瀬さん」  それは学校の昼休みに廊下へ出たときのことだった。櫻子は部活の顧問に呼ばれたようで、わたしは一人だった。お手洗いへ行く途中、背の高い男子からそう声をかけられた。 「はい?」 「あ、俺さ、わかる? 黒川だけど」  彼は自分のことを指差して名前を言った。ガッチリとした体格に、長い脚が特徴的。髪の毛は短髪で、爽やかな印象を受ける。 「えっと」と見覚えのある顔に、初対面ではないはずだと認識する自分がいた。 「あ、奏馬と一緒にいた」 「そうそう。学校の帰りだっけ、あいつと一緒に帰ってたとき、水谷が君を見つけて揶揄(からか)う感じでさ」 『そんなことあったっけ』  わたしにしか聞こえない声で奏馬が呟く。 「ずっと心配してたんだ。大丈夫なのかなって」 「ありがとう。でもなんとか元気」 「そっか。それならよかった。いや、マジでそれだけなんだけどさ、直接一言伝えたくて」 「うん、ありがと」  彼は本当にそれだけ言って自分のクラスへと戻って行った。 『あいつはいい奴だよ』  珍しく奏馬が褒める。 『黒川とは高校に入ってからできた友だちだけどさ、めちゃくちゃいい奴らしい。話も面白いし、優しくてさ。いっつも一緒につるんでたなぁ。あいつはオススメだぜ』 「は? なにオススメって」 『スキャンしたから間違いない。あいつはいい奴』 「だから、なにオススメって?」  わたしは周りに誰も人がいないことを確認しながら小さな声で反応する。 『まどかの恋人にってことだろ。誰がいいかって考えたときに、黒川がいいだろって』 「いや、だから、なんで奏馬にオススメされなきゃいけないのよ。そんなの自分で見つけるし」 『それはそうなんだけど、お前がいいと思った相手がとんでもない性格な奴だったら嫌じゃん。それを俺がスキャンして判断してやるって言ってんだろ』  上から目線で(実際にわたしよりも上にいるのだけれど)偉そうにそんなことを言う奏馬にイラッとして、「だからぁ!」と声を出してしまった。  廊下にいた他の生徒たちが思わずこちらを振り返る。突然一人で叫び出したおかしな女子という印象を与えてしまった。
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