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6
その日の帰り、どこかへ行ったと思っていた奏馬はちゃんとわたしの元へ帰ってきてくれた。自転車に並走するようにわたしの斜め上にいる。
『だから言っただろ。三津谷は要注意だってさ』
わたしは昼間にあった出来事を彼に話した。奏馬は少し怒っていた。
「うん。そうだった。でもどうしよう、このままだとさ、お祓いに行かなきゃいけなくなるよ」
『そんなもん、ほっとけばいいだろ。なんかヤバい奴って感じで無視すればいいじゃん』
「そんな簡単にいくかなぁ」
三津谷くんからすれば、霊に取り憑かれている女子を救うために動いてくれようとしているわけで。それをヤバいっていう理由だけで無視するのも変じゃないかな。でも奏馬の言う通り、このまま無視した方がいいというのもわかる。そうしないと奏馬が消されちゃうんだから。
色々なことを考えながらペダルを漕いでいたとき、目の前横断歩道の信号が赤になった。わたしは自転車を停めて信号が変わるまで待つ。すると、青になった左側の横断歩道を足の悪いおばあちゃんがとぼとぼとこちら側へ歩いて来るのが見えた。
大丈夫かなあのおばあちゃん、とっさにそんなことを思っていると、信号がパカパカと点滅し始めてしまう。おばあちゃんはまだ半分くらいしか進んでいない。
「あ、どうしよう」
わたしは自転車を降りて助けてあげようか迷っていた。奏馬も心配そうに見ている。
そのとき、向こう側から一人の男子高校生がそのおばあちゃんの元まで駆け寄ってきた。左折しようとする車に頭を下げながら、ゆっくりとおばあちゃんと歩幅を合わせて一緒に歩いていた。信号が完全に赤になっていても、決して慌てさせることなくゆっくりと。
ようやく横断歩道を渡り終えたおばあちゃんは、「ありがとうね。本当に助かりました」と拙い言葉でその高校生にお礼を言っている。
「いやいや、別に大したことなんてしてないですよ」
本当にありがとう。家はもうすぐそこだから、もう大丈夫」
「そっか、気をつけてくださいね」
おばあちゃんは何度も頭を下げてよたよたと歩みを進めていった。わたしはその光景に見とれてしまい、信号が青になったことにも気がつかなかった。
「あれ? もしかしてさ」とその高校生がわたしの顔を見ながら声をかけてくる。
「柳瀬、まどか?」
「え、うん。え、もしかして、金岸くん?」
「そうそう! うわ、久しぶりじゃん」
『誰だよ』
奏馬の不審そうな声が聞こえる。
「そろばん教室だよね? 小学生以来じゃない?」
「そうだよな。懐かしい。俺のこと覚えてたんだな」
「まあね。記憶力だけはいいから」
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