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「なにが?」 「いや、だから、ベッドにさ」 「ベッドがなによ」  母は怪訝な顔をしながらわたしのベッドに腰を下ろす。隣りには奏馬がいるというのに、それに気づかないようで。 「あんたさ、奏馬くんが亡くなって辛いのはわかるけど、しっかりしなさいよ。明日学校行くんでしょ?」 「……うん」 「なら、ほら」  お母さんは立ち上がってわたしを強く抱きしめた。何度も頭を撫でて、優しく笑いかけてくれた。 「もうすぐご飯できるから、早く着替えて降りてきなさい」  何事もなく母は階下へと戻っていく。  わたしはベッドに居続ける奏馬を見た。はっきり見えているわけではないけれど、わたしにはわかった。そこにいるのは、紛れもなく奏馬だ。 『だよな。わかってる。俺、死んだんだよな? そっか。まあ、しゃーねーか』    奏馬はなぜかあっさりしていて、自分の死を受け入れているようだった。 「あの、その、とりあえずさ、着替えていい?」 『あーそっか、わりぃわりぃ。窓開けて。五分ぐらい外に出るから』  言われた通りわたしは部屋の窓を開けた。少し距離を取って彼の行動を見守る。奏馬はそれが当たり前のように宙に浮かび、そのまま真っ暗な夜の中に浮かび続けた。 『窓閉めんなよ』  こくん、と頷く。奏馬はどこかへ飛んでいった。  わたしはベッドに腰を下ろした。まだ心臓は高鳴り続けている。さっきまで奏馬がいた場所は、温かみがなかった。それでも彼の存在を意識した気がする。  もしかしたら、夢だったのかもしれない。わたしが見たのはただの幻で、自分の頭の中で都合よく作り出したなにかだった、そんな考えに至ると次第に冷静になってきて。  わたしは窓を閉め、カーテンを閉めて、早々と着替えを済ました。  それからは奏馬のことを考えることもなく、テレビを見ながら夕食を食べた。お母さんは気を遣って色々と話しかけてきてくれて、なんとかわたしを元気づけようとしていた。その優しさがわかるからこそ申し訳なさも感じていて。  一時間ほどリビングで過ごし、スマホを触りながら自分の部屋へと戻った。  部屋の中は若干暑くて、扇風機を回そうかと思ったけれど、窓を開けて空気を入れ替えたい、そう思った。  カーテンを開けると、奏馬がいた。 『てめー、閉めんなっつっただろ!』  窓越しでも伝わってくる彼の怒号。  わたしは慌てて窓を開ける。 『お前さ、わざとやってんのか? あ?』  ずんずん、と一歩ずつ迫ってくる奏馬。ぼんやりとしか見えないが、怒っているのは明らかだ。わたしはそのままベッドまで後退りして、そこに腰を下ろした。
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