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金岸くんとは家の近くにあった公民館で開かれていたそろばん教室で仲良くなった男子だ。同い年だけど小学校は別々で。
週に二回、毎週行われていたそろばん教室。金岸くんとはなぜか席が隣りになることも多くて、何度か消しゴムを借りたことがある。授業が終わったあとも少しだけクラスに残ってアニメの話なんかをした覚えがあった。
「柳瀬は北高?」
わたしの制服を見てそう言う。
「うん。金岸くんは」
「俺は馬鹿だからさ、森高だよ。私立なんて無理無理」
「そんなことないと思うけど。でも、相変わらず優しくて、なんかほっこりした」
「あー、さっきの? いや、俺おばあちゃんっ子だったからさ、ああいうのほっとけなくて」
わたしは自転車を押しながら帰り道を進んだ。同じ地区だから家の場所も近い。久しぶりに再会したからか、積もる話はたくさんあって、近所の児童公園へ寄ってからも話は続いた。
彼は自販機でジュースを買ってくれて、それを二人で飲みながらベンチで会話をする。彼は自虐的に自分の話をする。それがおかしくおかしくて、わたしは涙を流しながら聞いていた。
「んでさ、そいつが先に行くんだよ。いや待てと。俺わい! って思いっきりツッコんでさ」
「あはははは。なにそれ、ヤバい」
最近では経験したことないぐらい笑ったわたしは、何度も手を叩いて体を揺らした。奏馬が近くにいるのを忘れてしまうほどに。
『……もしかしてさ、お前、こいつのこと好きなの?』
彼が飲み干した空き缶をゴミ箱に捨てに行ったとき、奏馬が声をかけてきた。
「は? なにそれ。そんなんじゃないし」
金岸くんに聞こえないぐらいの声でそう返す。
『ふーん。いいよ、じゃあわかった。俺が見てやるよ』
え? と思っていると、奏馬はゴミを捨ててこちらへ戻ってくる金岸くんの体に重なった。
「あれ? なんか急に風が」
金岸くんは突然吹いた風に驚きながらも、特に異変を感じることなくわたしの元へ。
「そろそろ帰ろか。あ、そうだ。ライン教えてよ」
彼に言われて、わたしはなんの迷いもなく連絡先を教えた。
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