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朝になって目が覚めても、奏馬はそこにいた。よお、とか言って右手を上げて。
「おはよう。もしかして、ずっといたの?」
『いちゃわりぃかよ』
「え、わたしの寝顔とか見た?」
『ああ見た見た。ブッサイクな寝顔だったぜ』
「はぁ? 最低! そういうの女の子に向かってよく平気な顔して言えるよね」
『しゃーねーじゃん。ほんとのことなんだから』
「あー、朝からムカつく。着替えるから外出ててよ」
わたしは鼻息荒く窓を開ける。怒んなって、と言いながらふらふらと外へ出た奏馬。わたしは口を大きく開けて、「いー」と言ってカーテンを閉める。
まだ寝ぼけている目をこすりながら、なぜだか笑いが込み上げてきた。奏馬がいることが当たり前になった。それがやっぱり嬉しくて。
いつものように身支度をして、顔を洗って、歯を磨いて。下に降りるとお父さんも新聞を広げながらわたしに挨拶をした。
「まどか……、大丈夫なのか? その、奏馬くんのことでな」
「うん。大丈夫大丈夫。元気だから安心して」
「そ、そうか。それなら父さんもな、まあ、安心してだな」
「お父さん凄く心配してたのよ。何回も私にあいつは大丈夫なのか、って聞いてきて」
お母さんがキッチンで食事の準備をしながらわたしたちに話しかける。それを聞いてお父さんは「いや……」と恥ずかしそうに声を落とした。
二人の優しさに触れて、わたしは笑顔で答える。
「ほんとに大丈夫だから。平気だよ。ありがとう」
ひだまりのような暖かさに包まれた気がした。両親の愛情が伝わってくる。
そのあと朝食を食べ終えて、わたしは家を出た。
自宅から高校までは自転車で十五分ほど行ったところにある。ガレージから自転車を押して通学路を進むと、見知った顔が近づいてきた。
『俺も行くわ、学校』
「は? 行くの?」
ふわふわと風船のように浮かび続ける奏馬は、わたしの肩辺りを飛んでいる。自転車の速度に合わせて。
『だってさ、暇なんだよ。夜も結局眠くもならねーし。やることなくて。幽霊って案外暇なんだって』
「そういえばさ、ちょっと疑問に思ってたんだけど、奏馬は壁とか物とか、そういうのってすり抜けられないの? 幽霊ってすり抜けれるもんじゃん」
『あーそれな。どうなんだろうな。自分でもよくわかんねーわ』
「そうなんだ」
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