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 自転車は住宅街を抜け、大通りへと進んでいく。頭の中でどのルートで行くかを決めていたのに、奏馬がそれを拒んだ。 『ちょっと待って』  信号で止まったとき、彼が声を出した。周りには通行人にもちらほらいて、なかなか声を出せない。 「なに?」と小声で言うと、彼は指を差して別のルートを示した。 『悪いんだけどさ、あっちから行ってくんねー? ここ真っ直ぐは行きたくない』  そうか、とわたしはすぐに理解した。  この交差点を越えた先は、奏馬が亡くなった現場がある。いくら幽霊といえども自分が死んだ場所は見たくはないのだろう。 「わかった」  彼にだけ聞こえるように、わたしはルートを変えた。  それから十分ほど進むと、同じ制服を着た生徒たちが増えていく。そういえば奏馬も同じ高校で、亡くなったときも制服を着ていたはずだ。それなのに、なぜか彼の姿は私服だった。 「ねぇ、奏馬はなんで制服じゃなくて私服なのよ?」 『は? 知らねーよそんなこと。俺が知りてーぐらいだよ』  ぶっきらぼうにそう答える奏馬。まあそれもそうか、と納得したわたしは前を向いた。 「まどか!」  後ろから唐突に声が聞こえた。振り返ると友だちの櫻子が手を振って近づいてきていた。 「おはよう」 「おはよう。ってか、大丈夫? なんかラインするのも気が引けちゃってさ」  彼女はわたしの右隣りに来ると、スピードを緩めた。櫻子はわたしに気を遣ってくれている。その優しさが嬉しかった。 「ありがとう。平気平気。問題ナッシング」 「そう? それならよかったんだけど。やっぱり、水谷くんは幼なじみだし……。自分のことに置き換えたら辛くて辛くて、朝起きられないんじゃないかなって」 「あーもうほんと大丈夫。朝ごはんも盛り盛り食べたし。マジちょー元気」 『お前マジさ、ちょっとは落ち込めよ。なんで盛り盛り食ってんだよ』  キッ、と空中を睨みつけたわたしは、櫻子に向き直る。 「まあ、あいつがいなくなったのは確かに辛いけど、いつまでも落ち込んでいられないし。たぶん天国でまたわーわー騒がしくしてるよ。落ち着きのない感じで」 「ふふっ。なんか想像できるかも」 「でしょ?」 『おい、てめー誰が落ち着きがないだコラ』  奏馬がわたしの左肩付近に顔を寄せて睨みつけてくる。あー怖い怖い。わたしはそちらに視線を送らないように櫻子のことだけを見ていた。
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