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それから五分も経たないうちに学校へ到着し、駐輪場へと向かった。自転車を置き、鍵を閉めてさあ行こうと思ったとき、別の男の子がこちらを見ていることに気がつく。
初めは他の生徒のことなのかと思った。でも、あまりにもジッと見てくる。視線を合わせないようにしていたが、近くにいた奏馬がそっと耳打ちをするようにわたしに言う。
『あいつ、確か同じC組の三津谷だ。なんか、めっちゃ俺のこと見てくる気がする』
マジ? 奏馬のこと見えてんの? と思ったけれど、口に出すわけにもいかない。
「どうしたの? 早く行こ」
櫻子に手を引かれてわたしは教室へと向かった。耳元で、『三津谷には要注意だな』と声が残った。
わたしと櫻子は同じクラスだ。A組。高校に入ってから仲良くなった。すぐに気が合って、連絡先も交換して。この子と一緒にいると本当に落ち着くし、気が楽だった。優しくてわたしのことを気遣ってくれて。奏馬のことも知ってるし、三人で話すことも何度かあった。
櫻子は美人だった。スラリとした体型で、いつも髪の毛を一つにまとめている。それがカッコよくて可愛い。男子からも人気があるはずなのに、それを自覚していないところが天然で面白い。
「おはよう」
わたしが自分の席へ着くと、隣りの席に座る万加部くんが声をかけてきた。
「おはよう」
「お前ら仲良いいな。いっつも一緒じゃん」
万加部くんはわたしと櫻子を見比べながらそんなことを言う。彼女はわたしとは離れたところに座っている。
「まあ仲良いのは仲良いよね。一番気が合う友だちだし」
「ふーん。ってかさ、大丈夫なん? 隣りのクラスの幼なじみのこと」
クラスのみんなはわたしのことを心配してくれている。やっぱり奏馬が亡くなったことは学校でも大きな話題の一つだった。
「ご心配をおかけしました。でも平気。ピンピンしてるから」
「そっか。辛かったらさ、我慢すんなよ」
彼は優しくそう言ってくれた。背が高くて、日に焼けた肌の好青年。奏馬にどことなく雰囲気が似ていた。
少しだけ胸が高鳴る。
「……ありがとう。万加部くんは優しいね」
「そんなことねーよ。別に普通じゃん」
照れながら視線を外すところも奏馬そっくり。
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