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『もしかして、お前、こいつのこといいなとかって思ってんの?』  教室の上の方でぷかぷかと浮かび続ける奏馬が嫌味ったらしく言う。  は? そんなんじゃないし、と声に出したかったが、喋るわけにもいかない。視線だけを斜め上に向けてキッと睨みつけた。彼は外国人のように両方の手のひらを顔の横で上に向けて呆れた顔をした。 『じゃあさ、俺が見てやるよ』  なにも言っていないのに、奏馬はそんなことを話し始めた。見てやるってなにを。  万加部くんが席を立ち、トイレへと向かおうとする。そのタイミングで宙に浮いていた奏馬が床に降りてきた。なにをするのか注視していると、彼はそれまでよりもなんだか薄くなったようにさらに透明に体を変化させたのだ。  万加部くんが教室を出る。それに重なるように、奏馬がすれ違った。 『なるほど』  彼は再び宙に浮かぶと、わたしの近くに来てこんなことを言った。 『あいつはやめとけ。スキャンしてわかった』  スキャン? と口元だけを動かして返事をする。 『まあこれは俺が作った言葉だから適当なんだけど、とりあえず、あの万加部ってやつの体を通り抜けてみたんだ。そしたら、あいつのことが全部わかった』  なに勝手なことしてんのよ、と思ったが、その先が気になるのも事実。わたしは黙って奏馬の話を聞き続けた。 『あいつは、今現在、三股してる女たらしだよ』 「は? なにそれ」  思わずそう声が出てしまい、周りにいた子たちが驚いて顔を向ける。 「あー、いや、お母さんがさ」とスマホを見せながら適当な言い訳をした。  わたしはスマホのメモ機能を開き、奏馬に見せながら文章で会話をすることに決めた。 『どういうこと?』  わたしの問いに、彼が答える。 『あの万加部ってやつは、イケメンだろ? 元々中学のときから付き合ってる彼女がいて、その子とは別々の高校へ通ってるんだってさ。それなのに、隣りのクラスの菅原って女子と付き合ってて、さらに二年の今井っていう女子の先輩ともデキてる。まだ入学して二ヶ月なのにモテモテだなこいつは』 『そんなわけないじゃん、勝手なこと言わないでよ』 『じゃあ確かめてみれば?』
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