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「なんでわかんの?」  休み時間、わたしは学校の奥の方にある人気の少ない廊下に行って、窓を開けながら外に向かって話していた。相手はもちろん奏馬だ。 『なんでって言われても、それはわからん。なんか急にできるって思ってさ』 「よくわかんないな。だってさ、そもそも窓とか通り抜けれなかったじゃん。なんで急に人の体を通り抜けられんのよ。おかしいじゃん」 『知らねーよ。できたんだから』  彼は宙に浮かびながらベッドで横になっているかのように頬杖をついている。ふてぶてしい態度だ。 「なんか急に存在が薄くなった気がしたんだけど、あれも関係あるの?」 『なんて言うんだろう、うまく説明できないけど、部屋の調光とかあんじゃん。ツマミがついたやつ。あれで光の大きさを調整できるみたいに、俺の体も薄くできたんだよ』 「それで万加部くんの体を通り抜けたら?」 『あいつの記憶とかが全部わかったって感じ』  奏馬は自分でもあまり理解していないような感じで説明をする。不明確なことだらけだが、要は人の体を通り抜けることができ、それをした相手の記憶などが全部わかるということらしい。 「それってさ、誰でもいいわけ? たとえば」  そう言って、わたしでも? と声に出そうと思ったが、凄く嫌な予感がしてやっぱりやめた。 『なに、たとえば?』 「あ、えっと、あ、あの先生」  ちょうど窓の外に歩いている先生を見つけた。名前が思い出せないけど、確か同じ学年の先生だったはず。五十代の頭が薄くなった男性教師だ。 『誰あれ』 「えっとね、思い出せないけど、とりあえずあの人のことすり抜けてよ」 『うーん、嫌だ』 「嫌だ? 嫌ってなに? できるかできないかの話じゃないの?」 『それはたぶんできる』 「じゃあやってよ。先生のこともわかるんでしょ?」 『わかるよたぶん。でも嫌だ』 「だから嫌ってなによ」 『なんか、やる気が出ねー』 「はあ? やる気の問題?」 『うっせーな、俺は自分がそうしたいときにしかスキャンしない。うん、そう決めた。今決めた』  なんなのこいつ。生きてたときからたまに思うことがあったけど、ほんとにわがままっていうか子どもっていうか。  ムカッとしたけど、もうこれ以上なにを言っても奏馬は考えを変えないことがわかっているから、わたしは深くため息を吐いて諦めることにした。奏馬の性格は誰よりも理解している。
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