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学校からの帰り道、櫻子と別れてからわたしは一人で自転車を漕いでいた。正確にはもう一人いる。人っていうか幽霊かな。
『あいつはマジで要注意だな』
あいつというのはもちろん三津谷くんのことだ。あの黒縁の眼鏡の奥で光る瞳には、奏馬の姿が映っていたのかもしれない。
本来ならば同じ霊感を持つ者同士、意見を交換したいところだ。
「やっぱり話さない方がいいよね?」
『話すって俺のことを?』
「うん。だって見えてるんだったらさ、なにか話が合うんじゃないかなって」
『いやあ、どうかなぁ。俺はやめた方がいいと思う』
「どうして?」
自転車は交差点へと差しかかる。信号が赤くなってその場で止まった。他に通行人はいない。
『だってさ、もし三津谷が俺のことを悪い霊だと認識してさ、俺を無理矢理成仏させようとしてきたら嫌じゃん。俺まだあの世に行きたくないし』
「うーん、まあそうか。っていうかさ、奏馬はなにか目的があってここにいるわけ? 未練みたいな」
『さあ? 俺にもわかんねー。なんかあるんだと思うけど、それがなんなのか自分でもわかんねーから。まあそれを見つけるためにもしばらくはこの世に残るって感じかな』
信号が青になる。ペダルを踏み込んで進むのだが、横断歩道を越えた辺りで奏馬が言った。
『あ、悪いけどさ、左行ってくんねー?』
朝と同じルートだ。なんで? とは聞けなかった。なんとなくわかるから。
「うん。わかった」
奏馬の未練が事故現場にあるのは薄々気づいている。たぶん行った方がいいはずなのに、わたしはそれを避けた。ずるいかな。自分に問いかける。
でも、まだ行きたくない。もしそれで奏馬が成仏しちゃったら、わたしは耐えられない。いつも一緒にいるとムカつくし、腹も立つけど、今はまだ奏馬を失いたくない、そう思った。
奏馬との思い出は色々ある。
中学生のころはよく喧嘩をした。好きな漫画だったりアニメだったりを言い合って、自分の主張を曲げないわたしたち。
どっちでもいいよ、と周りは呆れながら笑っていたが、わたしたちにとってはどうでもよくはなかった。
奏馬は気が強くて自分の意思を曲げない。それはわたし自身にも言えるところがあって、今にして思えば本当にどうでもいいようなことで揉めていた。
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