「気づけよ」(同級生・両片想い)

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「気づけよ」(同級生・両片想い)

連日続いていた雨が明け、久々に太陽を拝むことができた朝。私は正門までの急な坂道を息も絶え絶えに歩いていた。じりじりとした夏の日差しはまぶしくて、ついには私の体がふらりと傾く。 「おっと、大丈夫?」 すると、すぐ後ろから聞こえてきた声。振り向けば、サッカー部の副主将を務めている青島君がふらついた私の体を支えてくれていた。サラサラの髪に、少し垂れ目がちな優しげな瞳。その目元にあるホクロがすぐ近くで拝めるほど、私たちの距離はとても近かった。 「あ、青島君?!」 大げさに驚く私に、青島君は「そんな驚かなくてもいいだろ」とおかしそうに笑う。いや、だって、普通に驚くでしょ。青島君はあまり話す機会はないクラスメイトだけど、密かに片想いしてる相手なんだから。 頭の中はパニックで、アワアワとしている私。「青島君に声かけてもらっちゃった!」とか「こんな近くで青島君の美顔を拝めるなんて!」とかそんな感想で忙しい私の心中など分かるはずもなく、青島君は首を傾げて私のことを見つめていた。 「ふらっとしてるのが見えたから危ねと思って。んで、大丈夫?」 「う、うん!大丈夫!ちょっと暑さにクラッときちゃって」 「おお、ならよかった。急に暑くなったから、熱中症とか気を付けろよ」 「そうだね、気を付ける」 「教室まで一緒に行くか」と、流れでそのまま私の隣を歩く青島君。朝から何のご褒美タイムだ!とドキドキしつつも、思いがけないチャンスに嬉しくなる私。できるだけ平静を装って、私よりも15センチ以上背の高い彼の横顔をちらりと見上げる。 「それにしても、こんなに暑くなるとは思ってなかったよね」 「ホント殺人級の暑さだよな、今日。今から勉強とか、マジで憂うつだな」 「確かに。しかも、数学だよ?」 「げ、最悪!」 あからさまに嫌そうな顔を見せる青島君に笑みが零れる。こんなに暑いのに、青島君の髪のサラサラ感は変わらなくて、羨ましいななんて思いながら、その横顔を見つめた。 私が青島君を好きになったのは、体育の授業でサッカーをしていた青島君を見たのがきっかけだったと思う。 がむしゃらにボールを追いかけて、相手チームをうまくかわしながら決めたゴール。得点が決まった瞬間に見せた弾けんばかりの笑顔。単純かもしれないけれど、そのキラキラした姿にズキュンと胸を打たれて目で追うようになり、気づけば好きになっていた。 「そんなに数学嫌いだった?」 「うん、まあ」 青島君はなんだか歯切れの悪い返事を返したけど、何か思いついたのか「そうだ!」と続けると、にっこりと笑顔で私の顔を見つめてくる。 「なあ、今度俺に教えてくんない?数学」 その言葉に固まる私。 「え、私が?!」 「うん」 またもや、にっこり笑顔を返してくる青島君。いや、でも数学が得意な人ならクラスの中で私以外にいっぱいいると思うんだけど……。だから、申し訳ないと思って「私じゃあ青島君のお役に立てないよ。もっと、教え方うまい人とかに聞いた方が」とアドバイスした私に、青島君は真剣な眼差しを向けて言う。 「俺、お前に教えてもらいたいんだけど」 まっすぐな瞳に、ドキドキとうるさい胸の音。ジリジリと照りつけるような太陽は相変わらず暑くて仕方ない。 「な、なんで」 思わずそう聞き返すと、青島君はふと頬を緩めて今度は優しく笑いかけてくれる。ほんの少しだけ、頬を赤く染めながら。 「……なんでって、そりゃ分かるでしょ」 「気づけよ」(同級生・両片想い)【完】
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