「君だけは特別」(クラスメイト・片想い)

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「君だけは特別」(クラスメイト・片想い)

「ねえ、今度俺とデートしない?」 セミの鳴き声がし始めた夏の暑い日、来週提出する課題のワークをやっている私の頭上からそんな言葉が聞こえてきた。顔をあげると、そこにはにこりと笑顔の小野田君の姿。肩より少し短い髪は外に跳ねていて、くっきりとした二重瞼、通った鼻筋、形の良い唇と、端正な顔立ちの彼が、私のことをじっと見つめている。 「……小野田君なら、そういう相手たくさんいるでしょ」 からかうのはやめて、という意味をこめて、そっけなく返す。 だって、彼は学年……というか、この学校でもかなり人気の高い男の子なのだ。同学年はもちろん、先輩や後輩からも告白された、プレゼントをもらっていたなど、そんな噂話を耳にしたのは一度や二度のことではない。 実際、小野田君の周りには女子生徒が絶えなくて、いつも女の子の輪の中心にいる。爽やかな見た目に、コミュニケーション上手なところもあいまって、彼に恋心を抱く女子生徒はかなり多いのだ。 そんな彼が、ただのクラスメートである私に、なぜそんなお願いをしてくるのか。まったくもって理解できなかった。 「いないよ!たくさんって……なんか女の子侍らせてる悪い男みたいじゃん」 「侍らせてるでしょ、いつも」 「いや、なんかニュアンスが違うでしょ、微妙に!」 「でも、この間も放課後、門のところで他校の女の子に囲まれてたし……」 「あれは、向こうが勝手に待ち伏せしてただけで!別に、俺から声かけたとか、そういうのじゃないからね?」 必死に言い訳をする小野田君。それが、なんだかおかしくてクスッと笑えば、どこかバツが悪そうな表情をしていた。持っていたシャーペンを置いて、頬杖をついてその顔を覗き込めば、ジト目で私を見る小野田君と目が合った。 澄んだ瞳の奥に、私の顔が映る。 「それで?突然、私にデートのお誘いとかどうしたの?」 気になっている疑問をぶつけると、「OKの返事くれたら答えてあげる」だなんて、はぐらかされたから小野田君の言葉にかぶせるように「いいよ」と返した私。そんな返答は予想していなかったのか、小野田君は目を丸くして驚いていた。 「え、いいの?」 「小野田君から誘ってきておいて、その反応なに」 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしているものだから、またクスクスと笑ってしまう。いつも飄々とした、余裕ぶった彼らしくない顔だ。 「え、だって……!ま、待って、本気でいいの?俺の答え聞いてから、『やっぱなし』とか、なしだかんね?!」 「言わないよ」 私が笑ってそう返すと、小野田君は胸元辺りのシャツをくしゃりと抑える。かと思えば、自分の髪をガシガシと搔きながら「ああ、もう!」と唸っていた。なんだか余裕のなさそうな表情が、彼らしくなくて新鮮。 「私、勉強ばっかの人間だから、一緒にいてもおもしろくないと思うけど……」 そんな私とデートだなんて、本当にいいの?という気持ちで、そう尋ねてみれば、「一緒に過ごせる、だけでいい」と、どこか照れた顔をして言う小野田君。視線はふいと逸らされたけれど、その頬が赤く染まっているように見えて、私の心がじんわりと熱を帯びていく。 「確認だけど、小野田君って、今彼女いないよね……?」 「いないよ!いたら、こんなお誘いしないから!」 「いや、女の子から引く手あまたな小野田君なら、彼女いても、そういうこともありえるかも、と思って」 「俺のイメージ、どんななの?!」 やっぱり、いつもと少し違う小野田君に、私の頬が自然と緩んでしまう。 「だって、小野田君って学園中の女の子からモテモテだから」 そう返せば、今度は真剣な顔で私をじっと見つめてくる小野田君に、どきりと胸が音を立てた。 「……でも、俺が好きだって思うのは一人だけだから」 賑やかな教室内の音が、まるで聞こえなくなったかのように無音になって、彼の言葉だけがまっすぐ私に届く。その眼差しから目を逸らすことができなくて、私の胸のドキドキはしばらく収まりそうになかった。 「君だけは特別」(クラスメイト・片想い)【完】
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