「俺が嫌だから」(同級生・幼馴染)

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「俺が嫌だから」(同級生・幼馴染)

セミが鳴き始め、暑さも日に日に増していく夏のある日のこと、私は学校帰りにばったり出会った幼馴染の神代(かみしろ)と並んで歩いていた。家は隣同士。必然的に帰る道も一緒ということで、「一緒に帰ろう」という言葉もなく、流れで帰ることになったという感じだ。 「暑すぎて溶けそう……」 ハンディファンを片手に、第二ボタンまで外したポロシャツをパタパタとさせながら暑さをやり過ごす。この破壊的な暑さはマジで尋常じゃない。たった数十分歩いただけでも、汗がだらだらと流れていく。 一方の神代は、こんな暑さの中でも涼しげな顔をしていて何だか恨めしい。黒のストレートな短髪に、シャープな切れ長の瞳、口元にホクロ。我が幼馴染ながら、ホント整った顔してるなと、ちらりと横目で見遣る。神代は、そんな私の視線に気づいたようで、「何」と返してきた。 「アンタって、ホント顔だけはイケメンだな~……と思って」 「顔だけは、ってなんだよ」 「そのままの意味だよ、そのままの」 「もう少し、かわいげがある性格だったらなぁ」なんて、ひとりごちる。いかんせん、神代はこの塩対応が通常モード。愛想があれば、もっとモテるだろうに、と私は常々思っていた。 「別に誰かれ構わず愛想ふりまく必要ないだろ。俺のエネルギーが減る」 「エネルギーが減るって、なにそれ」 クスクスと笑いながら隣を歩く。小さい頃は私の方が身長が高かったのに、今では見上げないといけないくらい神代の身長は伸びた。その整った横顔を見つめながら、そういえば、こんなに近くで神代の顔を見るのは久々かも、と思う。 「……そんな見つめるな」 ふいに神代がこちらを向いて、切れ長の瞳が私をとらえる。 「いいじゃん、減るもんじゃないし」 「お前に見られると、なんか減る気がする」 「だから、減るってなに」 意味不明な神代。だけど、そんな他愛もない会話が私には結構楽しかったりする。 相変わらず夏の太陽は容赦なく照りつけてきて、暑さは増すばかり。私は、またポロシャツをパタパタとさせながらハンディファンの風量をマックスにして「ホント暑くて溶けそう……」と繰り返した。 「なあ」 神代に呼びかけられて、「ん?」と隣を見る。すると、立ち止まった神代が急に私との距離を詰めてきた。背の高い神代に改めてずいと前に立たれると、自然と体が身構えてしまう。 「な、なによ」 ハンディファンをギュッと握りしめながら問いかけると、眉間にシワを寄せた神代がなんとも言い難い表情で私のことを見つめている。かと思えば、伸びてきた手がポロシャツのボタンにかかる。 「第二ボタンは留めとけ」 頭上から聞こえた静かな声。その言葉と、神代の手に私の心臓がどきりと鳴る。すぐ近くで聞こえた低い声が、私の心を途端にかき乱す。 「で、でも暑いもん」 ドギマギする胸を押さえながら、そう返すと「暑くてもダメ」と続ける神代。「なんで」と問いかけようと顔を上げると、神代が私の瞳をじっと見つめてくる。そのあまりに真剣な眼差しに、何も言えなくなってしまった私は、赤い顔を見られないようにと、神代から視線を逸らすことしかできなかった。 「俺が嫌だから」(同級生・幼馴染)【完】
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