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「鈍感すぎ」(片想い・同級生)
空気がひんやりと冷えた寒い朝。手のひらに息を吹きかけて温めながら体を縮こまらせて学校へと向かう。こんなに寒くなるとは聞いてない。最近の気候はおかしくて、冬なのにまだ暑いと思えば、急に寒くなったりだから困る。
「今日の体育、何時間目だっけ……」
そんなことをひとり呟きながら寂しく歩いていると、「5時間目」と不意に後ろから低い声が聞こえてきた。振り返れば、そこにいたのは隣家に住む幼馴染の須藤。肩よりも少し短いサラサラの髪に、キリッとした目。制服は着崩していて、カッターシャツの下、首元からは黒いシャツが見えている。
「どうしたの、こんな朝早くに珍しいね」
低血圧な須藤は、朝は弱く、ギリギリまで寝ているタイプ。こんな早くに通学するとは随分と珍しい。私が首を傾げて須藤を見つめていると「あのなぁ
」と、何やら呆れた顔をされる。
「お前が弁当忘れてるから届けてくれって、おばさんが家にお前の弁当持ってきて起こされたんだぞ」
「うそ!」
須藤の言葉に慌ててカバンの中を確かめると、確かにお弁当箱がない。
「ごめん、わざわざ」
「ったく……」
そう言いながら手渡されたピンク色の保冷バッグ。その強面な顔面には、なかなか似合わない色合いに思わず、ククッと笑いが零れる。
「なんだよ」
「いや、ピンク似合わないなーと思って」
笑いながら、それを受け取ると「昼飯抜きでいいのか?」だなんて脅されるから、慌てて「ごめんって」と謝っておく。でも、受け取った保冷バッグを見つめながら、ふと疑問が湧いて出た。
「……弁当渡すなら教室でもよかったのに」
「なんでここ?」と首を傾げていると、保冷バッグを乱暴に押し付けられてずんずんと早歩きで先を行ってしまう須藤。「待ってよ」と、その背中を追いかければ、不意に須藤と目が合った。その何か含みを持った視線に、私の胸がドキリと音を立てた。
「鈍感すぎ」(片想い・同級生)【完】
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