5 二人目ゾンビの話②

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5 二人目ゾンビの話②

 自分に恨みを持つ者が、家族を手にかけようとしている。  憎しみと自分の家族の殺害予告が綴られた名無しの手紙が職場に届き、男は見た瞬間に、誰にも話さずに家族の元に走り出した。  家の周りに灯油を撒き、ライターで火をつけようとしたところに飛び込んだ。  揉み合いになり、ライターを相手から取り上げたところで、撃たれた。  相手が銃を持っていた。  銃弾に撃ち抜かれたが、家族を守るという意識だけで身体を動かした。  銃に撃たれても倒れずに自分に向かってくる刑事に、犯人の男が恐怖の表情を浮かべる。  すぐに弾切れとなった。  逃げ出そうとしても、恐怖からなのか足がもつれて転ぶ。  血まみれの刑事は、男に手を伸ばした。 「痛みも感じなかったから、すぐにゾンビになっていたのかねぇ。ゾンビに噛まれてゾンビになるんじゃないんだ、って事だけは分かったよ」  薄く薄く、男は笑った。 「それで? その後はどうなったんだい?」 「どうもこうもないさ。銃の音で通報があったのか警察が駆けつけた。警察が見たのは灯油を撒かれたオレの家と、倒れた男。転がってるライターと銃だ。しかも男は死んでいる」    事件はそれでオワリ。  家族の前から俺が消えただけで、家族は元通りさ。  それで良かったのだと、強がる男の声には後悔の念が混じっている。 「消えたオレの代わりに、女房を励まして、子どもを可愛がってくれる男が現れたんだよ。もう一年、邪な気持ちを持たずに純粋に家族の事を見守ってくれている、そいつと女房がようやく一緒になるようだ」  少しだけ、俯く。それから顔を上げた。 「漸くオレは御役ごめんだ」  ゾンビは泣けない。  だけど、目の前の男は泣いているように見えた。  話を聞いていた男がポツリと声をかけた。 「良かったな……」  暫く俯いて肩を震わせた男が顔を上げた。 「あぁ」  短く答える。  二人の会話はそこまでだった。  黙って、目の前の酒を見つめながら思い思いに雨の音を聞いている。  夜明けまであと三十分ほど。  ゾンビになってからと言うもの、二人は酒に酔った事はない。  ゾンビ最後の日でも酔えなかったか。  酒に酔うという心持ちを味わいたかったのだが。
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