7 雨上がりの夜明け

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7 雨上がりの夜明け

 Bar穴蔵の地下階段を上り、地上に出た二人は空を見上げた。  東の空が黄色く色づいている。  シトシトと雨を降らせていた雨雲も、漸く海へ退こうとしている。  雨雲の雲間から光が差し始めた。  男たちは互いに見やった。 「いい朝だな。漸く酒に酔えた。いい心持ちだよ」 「君のような仲間がいて、良かった」  消えてなくなると言うのに、いつかまた、そう思うのはなぜだろう。  マスターの餞のせいだろうか。  Bar穴蔵、見つけたのは偶然。  ゾンビの飲み仲間に出会えたのも偶然。  不思議な店だな。  (ゾンビ)たちは、互いにそう思った。  人であった時にすら感じなかった穏やかな気持ちで二人は、上がる寸前の雨にうたれた。  しとしとと降りしきる雨が二人の全身を濡らしていく。  上ってきた太陽の光が、残っていた最後の雨と共に二人に降り注ぎ、二人の身体はしだいに溶けていった。  身体から白煙が上がる。  痛みは感じない。  恐怖もない。  あるのは心地よい酔いと、家族への愛と感謝だけ。  お互いの目が合う。  どちらからともなく、笑みを浮かべた。  最期がこんな穏やかな気持ちで迎えられてありがたい。  雨上がりの空に還ろう。      シュウシュウと広がる白煙は、雨上がりの空に立ち上り、消えていった。  やがて、人々がまばらに動き始める。  雨上がりの湿った空気は、誰一人、気にしている者はいない。  重たい灰色の雲は遠く、海の方まで流れて行く。  街なかでは朝日が、濡れた路面を乾かし始めた。
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