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クラス替えで仲の良かった友達と離れてしまって、なかなかクラスになじめないでいた私は、隣のクラスのホームルームが終わるのを待っていた。
3年の教室の前の廊下には、自習用にテーブルと椅子が置かれている。
その中のひとつに座って、昨日ダウンロードした音楽を聴いていた。
突然片方のイヤホンをとられて、隣を見ると西寺侑里が座っていた。
西寺とは高3で初めて同じクラスになったけれど、名前も顔も以前から知っていた。
親が全国チェーンのファミリーレストランの経営者で、別格のお金持ちだというのは有名だったし、背が高い上に外見も派手で、見るたびに連れている女の子が違っているような、学年でも目立った存在だったから。
「何聴いてんの?」
そう言って、西寺は私のイヤホンを自分の耳につけた。
「誰、これ?」
「……小泉今日子」
「篠田は昔の曲が好きなの?」
「昨日、テレビで昔の音楽特集やってて、聴いてみたくなったから。『あなたに会えてよかった』って曲」
「ふうん」
古い曲と知って興味をなくしたのか、西寺は私にイヤホンを返すと、行ってしまった。
同じ「ユーリ」という響きの名前を持っていても、篠田悠里という名の私は自習で配られたプリントを静かにやる側で、西寺侑里はプリントを見もしない側の人。
同じ教室にいても、私とは違う空気を吸っている人だと、ずっと思ってた。
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