Unforgettable * 忘れられない

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塾で会う西寺は学校での印象とは全く違っていて、どこにでもいる普通の男子と変わらない。 「普通の男子」をよく知っているのかと言われたら、そこは疑問なんだけれど…… 女好きなんだと思っていたら、そうではなくて、女の子の方が勝手に近づいているのだということもわかった。 西寺は、馴れ馴れしい女の子には冷たい。 一度、私が授業の開始時間に遅れた時、私の座るはずの席に他の女の子が座っていて、西寺に話しかけているのを見た。 「ね、サボって遊びに行かない?」 「行かない」 「これワタシの番号。西寺くんのも教えて」 「いらない。もらっても速攻ゴミ箱」 「そんな言い方しなくてもいいじゃん」 「邪魔。さっさとどっか行け」 西寺が睨んだせいで、女の子は黙って教室を出て行った。 女の子がいなくなってから、さっきまで女の子が座っていた席に座った。 「今の、キツかったよ? もっと他の言い方があると思うけど」 「篠田のせいだよ」 「私?」 「篠田が早く来ないからウザイ女に絡まれた」 「それ、私のせいじゃないじゃん」 「何で遅かった?」 「掃除当番の後、先生に用事頼まれてたから」 「どうせ、誰かに押し付けられたんだろ?」 「そんなことないよ」 「どうだか」 「今度からオレに言えよ。篠田のためならそんなやつシメてやるから」 「それマンガで不良がよく言うセリフだよね。使ってるの初めて聞いた」 「篠田って、変だよな」 「それが褒め言葉じゃないのはわかる」 「いい意味で言ったんだよ。こう言えばいい? 篠田ってかわいいよな」 「はいはい、ありがとうございます」 「マジだって」 「そうですね」 「何だよ……」 西寺は少しムッとしたような顔をしていたけれど、こっちはそれどころじゃなかった。 「かわいい」なんて言われたのは初めてで、何とか動揺を隠すのに精一杯だった。 先生1に対して生徒2の個別学習塾だから、西寺が先生に教えてもらっている間、私の方は課題をやっておかないといけないのに、全然頭に入らなかった。 ようやく授業が終わって、テキストを片付けていると、他校の制服を着た女の子が西寺のところへやって来た。 今度の子は知り合いのようで、顔を見て「よぉ」とか何とか言っていた。 「侑里、お盆あけといて」 「何?」 「大上先輩がこっちに帰って来るから、集まろうって」 「場所と時間決まったらメッセージ送って」 「うん。わかった」 「それ、かわいいじゃん」 女の子がカバンにつけていたぬいぐるみを見て、侑里が言った。 「でしょ? じゃあ連絡するね」 女の子が教室を出て行くと、西寺は私を見て言った。 「彼女は同中。大学で県外行った部活の先輩が帰って来るから集まるって」 「別に、聞いてないけど?」 「なんだ。気にしてるのかと思ったのに」 「どうして私が……」 「また明日」 「うん。ばいばい」 「かわいい」って誰にでも言うんだ、って思っただけ。
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