Unforgettable * 忘れられない

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夏休みに入って、お昼をまたいで授業をすることが増えてくると、一緒にお弁当を食べた。 西寺はいつも手の込んだお弁当を持ってきていた。 私は「夏休みくらい自分で作ったら?」と、受験生にも関わらず母親には作ってもらえず、あまり美味しそうとは言えない、見かけも微妙なお弁当を持参していた。 私が西寺の色どりも鮮やかなお弁当を覗き見て、毎回のように「すごいね!」「美味しそうだね!」と言うからか、「やるよ」と言ってよくおかずをくれた。 お店で食べるみたいに美味しいのに、それを私にくれて、西寺は私の作った不格好な卵焼きや、焼いただけのソーセージを欲しがった。 だんだん、私が勝手に西寺のおかずを取って、代わりに西寺が私のおかずを取るようになった。 時間がなかった時に作った、具のないただの塩むすびを西寺は「美味しい」と言って喜んで食べた。 代わりに私がもらったのは手の込んだ炊き込みご飯で、行ったこともなかったけれど、きっと料亭で食べたらこんな味なんだろうなと思った。 夏休みの間、ほとんど毎日会っていた。 「なぁ、この間の模試、篠田のだけ化学は50点満点のテスト? 32点って何それ?」 「ほっといてよ。そういう西寺は何点だったのか見せて!」 「いいよ。ほら、82点」 「何で? 何で同じ授業受けてるのにこんな差が出るの? 数学は?」 「数学……」 「数学何点? 私は181点ですけど?」 「篠田おかしいって。数学だけSランクってどうなの?」 「入試に数学しかなかったら難関校も余裕ってよく言われる」 「残って勉強する? オレは化学教えるから、篠田は数学教えて」 「物理も教えてくれるんだったらいいよ。どうよ、この点数!」 「それ、自慢して言えないやつじゃん。100点満点中28点って何なんだよ? 文系に行った方がいいって」 「でもそれだと数学がいかせない」 塾が終わった後も、残って一緒に過ごした。 夏休みが終わって学校が始まると、それまで教室で話したこともなかったのに、普通に話すようになっていたから、周りには西寺と私が急に仲良くなったように見えたのかもしれない。 西寺のフアンと思われる女の子たちから睨まれることが増えた。
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