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「最初は嫌だった。けどさ、嫌だったのに……一周忌の時に窓の外で雨が降ってるのを、ずっと見てたんだ。父さんを殺した雨なのに、静かで穏やかで……だから、全部を悪いもんだと思うのをやめたんだよ。正義にはしてないけど」
「……そっか」
私にはそんな辛い過去はない。
ないけど、今の慧くんを形作ってきたものを共感出来る『心』はある。慧くんがどれだけ辛い思いをしてきたか……全部は共感出来なくても、彼自身を事故で失うかもと思ったあの瞬間の痛みとリンクさせたら、少し理解出来た気がした。エゴかもしれないが、私にとって慧くんは何よりも大事だから。雨上がりの匂いを好きになってくれた存在以上に、彼を愛していたから。
それと、今日もたまたま雨の日だった。ぽつぽつ、とガラス窓に付く水滴は細かく綺麗だが、どこか切ない。
止む時間は数時間後の夕方だ。夏の湿度と相まって、雨上がりのいい匂いもするだろう。仏壇にもう一度、慧くんと出会わせてくれたことのお礼を告げてから……二人でお母さんとランチを作る手伝いをした。
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