第3話

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第3話

「行く?」 「外だよ。夏芽の言ってた雨上がりの匂い、嗅ぎに行くチャンスだろ?」 「あ、うん。行こうか」  本来の目的はそうだったのに、彼との会話が心地よくて半分以上忘れていた。いつもは一人だったから、さっさと行くのに、天羽くんといるといつもと調子が違う。この心地よさを抜け出したくないが好きなものは避けたくない。だから、彼に続いてトレーを持って返却口に向かった。  ショッピングモールのテラススペースに行くと、春なのに日差しが強いせいか水溜りがきらきらと輝いていた。植わっている樹々と草むら、花の濃い匂いも強いが土と混ざったものも感じる。  いい匂い。  私の大好きな匂い。  だけど、今日は特別好きなものだった。  隣に共感してくれると思う異性がいるからかもしれない。 「へぇ? 前はあんまり気にしてなかったけど、なんか安心する」 「でしょ? 爽快とも違うけど、落ち着くから好き」 「夏芽はこれがずっと好きなんだな。わかるかも」 「……ありがとう」  お礼を言うのは変かもしれないが、何故か言いたくなった。  天羽くんも不思議に思ったのか、小首を傾げていたけれど。 「なんでお礼?」
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