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第1話
私、夏芽和香は雨上がりの匂いが好きだ。
具体的に言えと言われると難しいが、土や草の匂いとかが雨が降る前より強く濃く感じる。そんな匂いが小さい頃から好きで、好きな季節が当たり前のように夏とか秋だった。
さすがに、台風の時は危険だから雨上がりでも外の匂いを嗅ぎにはいかないが、落ち着けば散歩がてらにスニーカーを汚すほどに堪能しに行く。
そんな趣味を、誰にも共感してもらえなかったし、して欲しいとも思わなかった。
友達も恋人も、誰もが肯定する人間はいなかった。
大学に入学して二年目の春が来るまでは。
「夏芽の趣味、面白いな」
二年生のゼミクラスで、たまたま気が合った男子学生。天羽慧と自己紹介タイムで趣味を説明した直後、いい笑顔でそう言われた。異性同士の会話で、そんな事を言われたのは初めてだったから、いわゆる目から鱗がこぼれ落ちるくらいの衝撃を受けた。
「……そう?」
「うん。匂いフェチにしても、香水とかじゃなくて自然のだろ? いいと思う」
「天羽くんには、そう言うのあるの?」
「うーん。匂いじゃなくて、現象かな?」
「現象?」
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