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「――ではセディ。聞かせて頂きましょうか。どうしてこんな馬鹿げたことをしたのか」
公爵家の影によって護衛された質素な馬車の中。
アルベルティーヌは厳しい表情で、正面に座るセドリックを見据えた。
セドリックはしばらくの間黙ってうつむいていたが、やがて意を決したように顔を上げた。
「……君を守るためだ、ベル」
「それは知ってるわ。聞いたもの、未来のあなたに」
セドリックが目を瞠った。
「まさか、君のもとにも交信があったのか? ……未来の僕から」
「ええ、三日前の夜、突然にね」
アルベルティーヌの頭に直接語りかけてきた謎の声。
その男の異能についてアルベルティーヌは最初、他人の意識に直接語りかける能力と、未来予知の二つを併せ持っているのだと考えていた。
だが、二つの異能を併せ持った例は聞いたことがない。
一方で、かつての王族の中に、『時』の異能として過去や未来の人物と交信した例があることを、アルベルティーヌは妃教育を経て知っていた。
「二十歳を超えた頃、突然この異能に目覚めたのだと、未来の僕はそう言ってたよ」
「そういうことだったのね」
どうりで、婚約者でありながらセドリックの異能を知らされていなかったはずだ。異能が発現するのは約二年後。現時点ではまだ発現していないのだから。
「……だけどたぶん、あなたが交信したセディと、私が交信したセディは、違うセディだったのだと思うわ」
「……どういう、意味?」
セドリックが訝しげに眉を寄せる。
「セディ。未来のセディから交信があったのは、いつ?」
「今から一ヵ月ほど前のことだ」
アルベルティーヌは小さくうなずく。
一ヵ月前といえば、セドリックが急にアルベルティーヌを避け始めた時期と一致する。
「未来のセディは、あなたに何を伝えたの?」
「……僕と君が結婚したら、君はドロテ王妃から命を狙われ続け、お腹の赤子もろとも毒で命を落とすことになる、と……」
そう説明するセドリックの声は震えており、彼がその未来を心の底から恐れていることが伝わってきた。
「だから絶対に君との婚約を破棄しなければならない、と……」
「なるほど。思ったとおりね」
セドリックが目線で先を促してくる。
「私に交信してきたセディの話には、さらに続きがあったわ。婚約破棄された私は、今度はクロード殿下の婚約者になる。けれど王妃様に疎まれて結局は若くして暗殺されることになる、と」
「なんだって……?」
セドリックが唇を震わせた。
「だから、婚約破棄されても絶対にクロード殿下との婚約を受けてはならない、断るために国外に逃れてほしいと。未来のセディは私にそう伝えてきたの」
「そうか……つまり、こういうことか……」
セドリックは瞬きも忘れて思考に浸る。
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