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「僕に交信してきたセドリックは、君と結婚した未来の世界のセドリックだった……一方、君に交信してきたセドリックは、僕と君が婚約破棄して、君がクロードの婚約者になった未来の世界のセドリックだった……そういうことだね?」  アルベルティーヌはうなずいて見せる。 「ええ、そうだと思う。未来のセディは、すでに一度過去のセディと交信し、婚約破棄を指示してしまった。だから、もう一度セディと交信して方針を変更するよう伝えることができなかった。同じ人物と二度と交信できないというのは、かなり厳格なルールのようね。だから、婚約破棄を前提に暗殺の未来から逃れられるよう、今度は私に交信を試みた。……名前も素性も明かさずに」  セドリックが目を瞠る。 「未来の僕は君に名乗らなかったのか……いや、そうだな、僕ならそうする。僕のことを忘れて新しい人生を歩んで欲しいと思うなら。……でも、だったらなぜベルは、声の正体が未来の僕だと……?」  アルベルティーヌは小さく微笑んだ。 「すぐには気付かなかったわ。悔しいけど。声を少し変えていたし、異能の内容についても誤解していたから……。だけどあの声の主は、心から私のことを案じてくれていた。悲しいくらいに。声だけでも、それは分かったの。だから、もしかしたらと思った。いえ、そう思いたかっただけかもしれない……。確信したのは最後の最後よ。あの声が、私をベルと呼んだときに」  セドリックが目を瞬く。  アルベルティーヌは口の端を上げた。 「知らなかった? 私をベルという愛称で呼ぶのは、セディ、あなただけなのよ。あなた以外には許していないの」  しばらく呆然としてから、セドリックは力なく自嘲の笑みを浮かべた。 「……そうか、君には何もかもお見通しだったんだな。でも、じゃあなぜ僕を連れ出すの? 君のことだ、すでに国外に出る手筈は整えてるんだろう?」 「ええ、お父様に依頼済みよ。その気になれば明日にでも出立できるわ。……でも」  アルベルティーヌはそこで言葉を切り、表情を消した。 「あなたの問いに答える前に、私の最初の質問に答えてちょうだい。なぜ、こんな馬鹿なことをしたの?」  セドリックは唇を噛む。 「……どんなに愚かなことをしてでも、君を守りたかった。絶対に守ると、約束したから――」 「私だって約束したわ! あなたを守るって!」  叫ぶように言い、アルベルティーヌはセドリックを睨み付ける。 「なのに、どうして相談してくれなかったの!?」  溢れ出した感情と共に、緑の瞳から大粒の涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。 「ひどいわ、いつまでもどこまでも、一緒に行こうって、そう約束したのに……自分一人を犠牲にして、それで済ませようだなんて……!」  声に嗚咽が混じる。 「……ごめん、ベル、本当にごめん……」  セドリックがおずおずとアルベルティーヌを抱き寄せる。  その胸にしがみつき、アルベルティーヌは声をあげて泣いた。
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