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「さあ、ここからが本題よ。二つの道を用意したわ」  散々泣いてスッキリした顔で、アルベルティーヌは指を二本立てて見せた。 「このまま二人で外国に亡命する道が一つ」 「もう一つは?」 「もちろん、戦う道よ。王妃様をぶっ潰して、あなたは王太子に、私は王太子妃になる」 「王妃殿下をぶっ潰すって……」  不敵な笑みを浮かべてとんでもないことを言い出したアルベルティーヌに、セドリックが目を瞬く。 「実は、ララさんを買収してあるの。あなたを王位継承争いから引きずり下ろすためにハニートラップを仕掛けた、王妃殿下の指示で――そう証言してくれるようにね。セディはそれに気付いていながらララさんを泳がせていた、と、そういう筋書きよ。ああ、情報操作は公爵家の十八番だから任せてちょうだい」 「ハニートラップって……。だって、ララ嬢は僕の依頼で偽の恋人役を演じてくれていただけで……」 「ええ、ハニートラップというのはもちろん嘘よ。だけど、この程度の嘘、可愛いものだと思わない? ……暗殺に比べれば」 「それはそうだけど、暗殺はまだ起きていない未来で……」 「私の暗殺は、ね」 「……まさか」  二人は声を潜める。 「前王妃様――セディのお母様の急な病死にはドロテ王妃殿下が関わっていると思う。毒を扱うのがお得意のようだしね。今、お父様の影が証拠を集めているところよ。必ず見つけ出してくれるわ」  見つからなければ作るまでよ、というのは言葉にしないでおく。 「……ララ嬢の身の安全はどうなる?」 「もし戦う道を選んだ場合、ララ嬢には証言をして頂き次第、私達の代わりに国外に亡命して頂くつもりよ。多額の餞別と、病身のお父上と一緒にね」  ララと対面したときのことを思い出し、アルベルティーヌは口の端に笑みを乗せた。 「彼女、面白い人ね。信頼できる。どんなに大金をちらつかせても、先に受けたあなたの依頼に反することはしないと言い切ったわ。その上で、それと両立することなら条件次第では受けると、堂々と私に言ったのよ。肝が据わってるわよね」  そこでアルベルティーヌは、少しばかり意地悪な笑みを浮かべてセドリックを見た。 「私、彼女のことが気に入ったわ。ほとぼりが冷めたら呼び戻して側に置こうかしら」 「う……さすがにそれは勘弁して下さい……」  婚約者と元恋人(偽)が二人で談笑するシーンを思い浮かべたのだろう。セドリックが泣きそうな顔でうなだれる。  その様子を見て、アルベルティーヌは溜飲を下げることにする。この一ヵ月、アルベルティーヌは大いに傷ついたのだ。これくらいの意地悪は許してほしい。  冗談よと笑って見せ、アルベルティーヌは居住まいを正した。
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