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未来を知っているという、正体不明の男の声が突然頭の中に響いたのは、前日の就寝前のことだった。
『君の婚約者は、三日後に婚約破棄を宣言するつもりだ』
男からそう告げられたとき、アルベルティーヌは大きな衝撃を受けた。
と同時に、「やっぱり」という思いもあった。
セドリックの様子がおかしくなったのは、一ヵ月ほど前のこと。
ある日突然、アルベルティーヌを避けるようになった。
喧嘩をしたわけではない。
思い当たることは何もなかった。
いや、仮にアルベルティーヌが何かセドリックの機嫌を損ねるようなことをしてしまったとしても、話し合うことすらせずに距離を置くような人ではない。
もっと言えば、セドリックがアルベルティーヌに対して機嫌を損ねるということ自体、ありえないことのように思えた。
セドリックは、少しばかり気の弱いところはあるけれど、とてもおおらかで優しい人なのだ。
特に婚約者のアルベルティーヌには、甘すぎるほどに甘い。
……それが、八歳のときから十年間、セドリックの婚約者として過ごしてきたアルベルティーヌの認識だった。
何か事情があるに違いない。
アルベルティーヌはセドリックと話をしようとしたが、セドリックは徹底的にアルベルティーヌを避けた。
何度も手紙を送ったがなしのつぶて。
そうこうするうち、セドリックは一人の少女を側に置くようになった。
二つ下の学年に在席する、男爵家の娘ララ。
初めてセドリックとララが二人でいるのを見たとき、アルベルティーヌは自分の目が信じられなかった。
それまでのセドリックは、婚約者のアルベルティーヌを誰よりも優先してくれていた。
どんなに他の令嬢に言い寄られてもやんわりと躱し、適度な距離を保つ。どうしても他の女性の相手をする必要があるときは、必ず事前にアルベルティーヌに相談してくれた。
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