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 一度、二人が図書館で同席しているところに、偶然を装って突撃したことがある。 「私もご一緒してよろしいかしら?」  ドキドキしながら声をかけると、セドリックはアルベルティーヌを一瞥し、 「僕はララ嬢と話があるんだ。すまないが君は遠慮してくれ」  と、冷たく返した。  そしてもう、アルベルティーヌを見ようともしなかった。  アルベルティーヌはそれ以上何も言えず、「承知いたしました」とその場を立ち去るしかなかった。淑女の笑みを保つので精一杯だった。  セドリック第一王子殿下が、婚約者のアルベルティーヌ公爵令嬢よりもララを優先した。  図書館でのやり取りを見ていた者達の口を介して、その話はあっという間に学園中に広がった。  セドリックは長年の婚約者を差し置いてララに心変わりしたのだと、多くの者が噂した。  それを肯定するかのように、セドリックは連日ララを隣に侍らせた。  当初は信じられない思いでいたアルベルティーヌだったが、一ヵ月もそんな光景を見せつけられれば心は揺らぐ。  ララがアルベルティーヌとまるで違うタイプなのも、アルベルティーヌの心に棘を刺した。  ピンクブロンドのさらさらとした髪に、チョコレート色の大きな瞳。鼻と口は小ぶりで、小動物を思わせる愛らしい顔立ち。  体つきは小柄で、折れてしまいそうなほどに華奢。  多くの男性が守ってあげたくなるような、庇護欲をそそる容貌のララ。  一方のアルベルティーヌは、燃えるように波打つ赤毛に、宝石のように煌めく緑の瞳。その瞳は気の強い内面を表すかのように吊り上がっている。  女性にしては背が高く、ダンスや乗馬で鍛えた体はしなやかだが弱々しさは微塵もない。  そんなアルベルティーヌに、かつてのセドリックは、 「僕のベルはいつ見ても格好いいなぁ。太陽みたいなその髪も、猫みたいな瞳も、僕は大好きだよ」  と、目を細めてくれていたのに。  悲しみ、嫉妬、失望、そしてセドリックを信じたい気持ち。  ぐちゃぐちゃに乱れていたアルベルティーヌの頭の中に、突如、謎の男の声が響いたのだった。
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