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「それで? 詳しい話を聞かせてもらおうじゃないの」
公爵邸の自室に戻ったアルベルティーヌは、侍女を下がらせ一人になってから口を開いた。
「セディが婚約破棄を企てているのは明後日、学園の卒業パーティーの場。それで間違いなかったかしら」
『そう。国王が外遊で不在の隙に、皆の前で宣言してしまおうという計画だ』
男の声が、アルベルティーヌの頭の中に響く。
他人の頭の中に直接語りかけてくるこの謎の男は、この世に稀に存在する異能の持ち主なのだろう。
さらに未来が分かるという能力。そういう異能が存在するということも、アルベルティーヌは知識として知っている。
知っているからこそ、アルベルティーヌは男の言葉を戯れ言と切り捨てることはできなかった。
「なるほど。強引だけど有効な方法ではあるわね……」
セドリックとアルベルティーヌとの婚約は、王家と公爵家との間で結ばれたもの。本来、セドリックの独断で破棄できるようなものではない。
だが、多くの人の目がある前で一方的な婚約破棄を宣言してしまえば、さすがの王家といえどもなかったことにはできない。
それに、公爵家当主である、アルベルティーヌの父も黙ってはいないだろう。
父は公爵家当主として、また国の敏腕宰相として、大きな力を持っている。そして冷静沈着なふるまいの裏には、娘と同じく苛烈な性格を秘めている。相手が国王といえども大人しく言いなりになるような人物ではないのだ。
なにより、娘のアルベルティーヌを心から愛している。もしもアルベルティーヌが不当に害されるようなことがあれば、王家に戦争をふっかけることすらしかねない。
そんな父だから、娘をコケにされてまでこの婚約にしがみつくとは考えにくい。
あっさりと婚約破棄に応じるだろう。もちろん、莫大な慰謝料と引き換えに。
「だけど、分からないわ」
アルベルティーナは小さく眉を寄せる。
「このタイミングで私と婚約破棄することは、セディにとって得策ではないはずなのに……」
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