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 セドリックは第一王子だが、いまだに立太子されてはいない。  学園を卒業した後に立太子される予定になってはいるが、絶対確実とは言えない事情があった。  というのも、セドリックは現王妃の子ではないのだ。  セドリックの実母である前王妃は、八年前に急な病で儚くなっている。  代わって王妃の座に就いたのが、国王の愛妾だったドロテだ。  ドロテと国王との間には、セドリックより二つ年下の王子クロードがいる。  伯爵家の出身ながら野心家のドロテが、我が子クロードを王位に就けんと狙っていることは、貴族であれば誰もが知っている話だ。  当のクロード本人も、十分に王太子の素質を備えた優秀な王子であるらしい。  「らしい」というのは、アルベルティーヌがこの数年、クロードの姿を見ていないからだ。  幼い頃は、セドリックとクロード、そしてアルベルティーヌの三人で、よく遊んだものだった。  クロードは「にいさま、にいさま」とセドリックの後をついて回り、セドリックもそんな異母弟を可愛がっていた。  「アリーねえさま」と慕ってくれるクロードのことを、アルベルティーヌも好ましく思っていた。  クロードと会えなくなったのは、セドリックの実母である前王妃が亡くなってからだ。  暗殺の恐れがあるなどとして、母親であるドロテが離宮から出さないのだと言われている。学園にも通っていないが、一流の家庭教師が何人もついて、クロードに英才教育を施しているそうだ。  そんな対抗馬がいながら、第一王子派と第二王子派で激しい派閥争いが起きていないのは、セドリックに公爵家という強力な後ろ盾があるからだ。 「なのに今それを失えば、確実に第二王子派に付け込まれるわ。ララさんの実家の男爵家には、セディの後ろ盾になれるような力はないし……」  それどころか、爵位返上も視野に入るほど困窮しているらしいということを、アルベルティーヌはここ一ヵ月の調査で把握していた。  ララがセドリックに近づいたのは、あわよくばの玉の輿目当てでは、とアルベルティーヌは勘ぐっている。  だが、そうであればセドリックだって気付くはずなのだ。セドリックはおっとりしているようで、そういったことに鈍感な人ではない。  いずれにせよ、ララが純粋な恋心だけでセドリックの側にいるとは思えない。  図書館で相対したとき、おろおろと戸惑ったような表情のララの目に、ほんの一瞬、状況を面白がるような色が浮かんだことに、アルベルティーヌは気付いていた。
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