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「そもそも後ろ盾云々以前に、皆の前で婚約破棄だなんて醜態を演じた時点で、セディは求心力を失ってしまうわ……」
学園内で公然とララを連れ歩くセドリックに、密かに失望と侮蔑の視線を送る者は多い。
さらなるスキャンダルを起こせば、クロード自身はともかく王妃が黙ってはいないだろう。
「私がセディの立場なら、どんなにララさんに心を奪われたとしても、婚約破棄などしないわ。公爵家の娘と結婚した上で、王太子になり、その上でララさんを愛妾にする」
アルベルティーヌとの婚約を破棄してしまったら、セドリックは王太子にはなれないだろう。
そんなこと、セドリックだって分かっているはずなのに。
「それなのに、どうしてそんな馬鹿なことを……」
『……真実の愛のためだろう』
ずっと黙っていた男の声が答えた。
「恋だの愛だののために、全てを無駄にするというの?」
王太子になるためにセドリックがどれほどの努力を重ねてきたか、アルベルティーヌはずっと間近で見てきた。
アルベルティーヌ自身にも厳しい妃教育が課されたが、二人で励まし合いながら乗り越えてきたのだ。
そんな日々を全て無駄にしてでも、ララへの愛を選ぶというのだろうか……。
『恋は人を愚かにする。セドリックにとっては、王太子の地位よりも真実の愛の方が大切だということだ』
男の声は静かで、けれど容赦なかった。
「……私は嫌よ、婚約破棄なんて」
アルベルティーヌは声を絞り出す。
「こうなったら、明後日のセディの計画をぶち壊してやるわ!」
『それは駄目だ!』
突然の大音量に、アルベルティーヌは飛び上がった。
「ちょっと! 急に大声出さないでよね!」
『すまない……。だが、婚約破棄を阻止してはいけない。そのまま受け入れるんだ』
「なぜ? 阻止するために事前に教えてくれたんじゃないの? 私、婚約破棄なんて受け入れられない。だって私はセディのこと今でも……」
『あの男は駄目だ。あの男と結婚したら、君は不幸になる』
「……それも、未来が分かるというあなたの異能で知ったというわけ?」
『そうだ。セドリックと結婚し王太子妃となった君は、何度も命を狙われ……ついには毒を盛られ、血を吐いて死ぬ。お腹に宿っていた赤子もろとも……』
男の語る内容に、アルベルティーヌは息をのんだ。
『おそらくドロテ王妃の差し金だろう。悶え苦しみながら息絶える君を前に、セドリックは何もできなかった……。あの男は駄目だ。君を守れない』
男の声には、はっきりとした失望の色があった。
『……君に本当に伝えたかったのは、ここから先の話だ』
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