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「どういうこと?」
『君への婚約破棄を宣言したセドリックは、廃嫡されることになる。そして、王太子には第二王子クロードが指名される』
アルベルティーヌは無言でうなずいた。
『そして、セドリックとの婚約を解消された君は、今度はクロードの婚約者になる』
「なるほど……」
それは大いにありうる話だと思えた。
公爵家からの慰謝料を回避しつつ、クロードの後ろ盾を得たい王家。
公爵家の体面も保たれる。
アルベルティーヌの受けた妃教育も無駄にはならない。
『だが、クロードと結婚しても、君はやはり暗殺される』
「えっ」
『嫁姑問題、とでも言えばいいのだろうか。君は大人しくドロテ王妃の駒でいるような人じゃないからね。君を疎ましく思うようになった王妃が君を排除しようと……。クロードも、君を守ろうとはしたようだが……』
男の声が苦しげなものになる。
「……つまり、どう転んでも、私は王妃様に毒殺される運命にあるというわけね」
『そうだ。だから、セドリックとの婚約が破棄されても、クロードとの婚約を受けてはならない。公爵家の力をもってすれば、婚約を突っぱねることもできなくはないはずだ。そのためにも君は、婚約破棄と同時に外国に逃れて欲しい。王家の手の届かないところへ……』
アルベルティーヌは無言で、男の話を頭の中で整理する。
姿も、名前すらも知らない謎の男。
確かに、未来を知る能力を持っているのだろう。その内容も決して荒唐無稽なものではない。
だが、本当に信用してもいいのだろうか……。
『アルベルティーヌ、どうか信じて欲しい……。君は賢くて強くて、眩しいほどに美しい人だ。新天地で、必ずや幸せを掴むことができると信じている……』
深い溜息を一つつき、アルベルティーヌは心を決めた。
「信じるわ。あなたのこと」
素性も分からない男。
だがその言葉から、声から、吐息から、心からアルベルティーヌを案じていることが伝わってくる。
「明後日の婚約破棄の邪魔はしない。クロード殿下との婚約も断るわ」
『ありがとう、信じてくれて……』
男が吐息混じりに呟く。
その声音には、安堵と共に、切なさが混じっているように、アルベルティーヌには思えた。
『ではこれで、君との交信を終えようと思う。さようなら、アルベルティーヌ。どうか幸せに――』
「待って!」
アルベルティーヌは、鋭い声で男を呼び止めた。
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