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 二日後。  華やかなる卒業パーティーの場で、セドリックが高らかに宣言した。 「公爵令嬢アルベルティーヌ、今この場で、君との婚約を破棄させてもらう」  第一王子の突然の振る舞いに、会場は驚きと戸惑いのざわめきに包まれた。  自然と人垣が割れ、セドリックとアルベルティーヌとを遮る者はいなくなる。  こうなると聞かされていてもなお、アルベルティーヌの心臓はドクドクと嫌な音を立てた。  けれどそれを表情には出さず、毅然と顔を上げて冷静な視線をセドリックに返す。 「理由をお聞かせ頂けますでしょうか」  セドリックはアルベルティーヌの視線を真っ向から受け止めた。 「……真実の愛のためだ」  そう答えるセドリックの傍らには、ララの姿がある。  セドリックに寄り添い、不安そうに眉を下げるララは、儚げな美少女にしか見えない。  たいした演技力だこと、と感心しながら、アルベルティーヌは前日のララとの対面を思い出す。  質素な男爵邸を密かに訪ねたアルベルティーヌを、ララは余裕の笑みで出迎えた。 「ごきげんよう、アルベルティーヌ様。せっかくお越し頂いたのに申し訳ないですけど、あたし、セドリック殿下を裏切るつもりはありませんわ」  ララを見据えたまま、アルベルティーヌはローテーブルの上に札束を積み重ねていく。  それにちらと目をやり、ララは唇を舐めた。にやりと口角が上がる。 「……まあ怖い。でも、そうですわね、条件次第では――」  そんな本性を綺麗に隠して舞台に立つララから、再びセドリックに視線を戻す。 「真実の愛、ですか。……他にやりようはなかったのでしょうか」  束の間、アルベルティーヌとセドリックの視線が絡む。  先に逸らしたのはセドリックの方だった。 「……君にはすまないと思っている。だが、考え直すつもりはない」 「分かりました。ならば仕方ありません。婚約破棄のお申し出、謹んでお受けいたします」  美しい淑女の礼とともに答えると、セドリックの瞳に動揺の色が浮かんだ。アルベルティーヌがあっさり応じるとは思っていなかったのだろう。 「アルベ……」 「そこまで」  厳粛な声音は王妃ドロテのものだった。
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