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「ベル、大きくなったら僕のお嫁さんになってくれる?」
ふわふわとした淡い金の髪に、透き通るような青い瞳。
天使のように美しい少年が、頬を染めて手を差し出す。
「いいわよ! 私、セディのお嫁さんになるわ!」
満面の笑みで答え、小さな手を重ねる。
「僕、何があっても絶対にベルのこと守るからね」
「私も、セディのことを守るわ!」
にこりと笑い合い、手を繋いで。
二人でいつまでも、どこまでも。
そう、約束したはずなのに――。
◇
じわりと滲んだ涙で視界が歪んだ。
視線の先のガゼボにいるのは、淡い金の髪の青年。
この国の第一王子にして、アルベルティーヌの十年来の婚約者セドリック。後ろ姿だって、絶対に見間違えたりなどしない。
そして彼の隣には、一人の令嬢が腰掛けている。
ピンクブロンドの小柄な後ろ姿は、近頃セドリックと親しくしている男爵令嬢ララに違いない。
二人は人気のない学園の裏庭のガゼボで、肩が触れ合いそうなほどの距離で隣り合っている。
まるで恋人同士のように。
二人がどんな愛の言葉を囁き合っているのか、物陰に潜むアルベルティーヌのもとにまでは届かない。届かなくて良かったと思う。聞いてしまうのは恐い。
それ以上はいたたまれず、アルベルティーヌはぐいと瞼を拭い、静かにその場をあとにした。
『これで信じてくれた? 僕の言葉』
足早に、けれど公爵家の娘らしい優雅さを保って廊下を進むアルベルティーヌの頭の中に、男の声が響いた。
「……ええ、悔しいけれど。信じないわけにいかないでしょ。昨日あなたが予言したとおりの時間、場所で、セディとララさんが密会していたんだから……」
言いながら、寄り添う二人の姿を思い出し、ツンと鼻の奥が痛んだ。声に涙が滲む。
『……泣いてるの?』
「泣いてなんかいないわ。……でも泣きたい気分よ。十年来の婚約者に心変わりされて、二日後には婚約破棄されるっていうんだから……」
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