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借り物競争は世界を救う?!
半ば呆然と姿見を見つめた後、俺はのろのろと足を動かした。
違和感が半端ない自分の姿。
けれども、ソレを感じ取って彷徨っているのは、俺だけだ。
周りの者は皆、警笛に困惑しつつも、その場に留まり、落ち着いている。
不安と心細さで、いつの間にか俺は、自宅の方へと向かっていく。
すると、突如としてバリケードが現れた。しかも、道は封鎖されている。
何だ?! 何があったんだ?
俺は思わず、駆け寄った。そこへ、鋭い警告の言葉が届く。
「止まれ! 止まりなさい!! そこのK高校のジャージーの君!」
バリケードに近づき過ぎたからか、俺の姿を見たバリケード外の群衆から、どよめきが起こる。
「何だ、アレ」
「ピンクだ」
「目はレモンイエロー?!」
「マジかよー」
その中で、一際大きく悲鳴のような声が響いた。
「く、くろー?! 久良、あんた、その姿一体?!」
「母さん! 俺、」
母の声を聞き、その姿を求め、さらにバリケードへ足を進める。
すると、今度は大きな声と共に、警棒が突き出された。
「止まれ! こちらへ来るな!」
ソレを見て、俺は大きな衝撃を受ける。
そうだ、アレだ……!
身がすくむような、度重なる怒声も気にならない。
俺の目は、ソレに釘付けだ。
フラフラと近づき、ソレ――黒い警棒に触れる。
その瞬間、俺の認識は欠落したもの【黒】を取り戻した。と、同時に、俺の姿はいきなり元の色彩、黒目黒髪に戻ったらしい。
しかし、残念ながら、この騒ぎにより、体育大会は中止。
俺の借り物競争の野望は、来年に持ち越されることになった。
ちなみに、K高校を中心にしばらく、極彩色のカラスが有名になり、研究者達が殺到したとか……。
一連の騒ぎを通して、未知の対策不能だった"欠落"現象に、1つの解決策が示された。
"欠落"現象の場合、普通その範囲内に居た者に、欠落の自覚はない。
自覚なしに、全ての認識が塗り替えられてしまう。
そのため、対処が難しい。
自覚なく欠落したものを探す困難さ。それに、欠けてしまった人々の行動様式の見極め、保護が加わる。
今までは、隔離するしか方法がなかった。
しかし、今回の欠落は、外部にも分かりやすい【黒】にまつわるモノだった。
しかも、想定外な久良の行動を通し、新たに判明したことも多い。
何故、彼は欠落を認識出来たのか。
疑問と共に彼の行動を検証分析した結果、解明されたことには――
まず、欠落の瞬間、その欠落するものを強く思って認識している者のみ、欠落を感じ取れるということ。
そして、欠落を取り戻すには、欠落したものに直接触れれば良いということ。
これらは、"欠落"現象の解決策にもなり得る。
何よりお手柄なのが、その"欠落"現象に関わる文字が文字化けしていた、という事実が判明したことだ。
それにより、"欠落"現象内で文字化けしたものを探し、外と比べ欠落の内容を推察する等、各地で様々な研究が一気に進められるようになった。
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