憧れの借り物競争

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憧れの借り物競争

「そうだぞ。怖いんだ」と重ねて父が言う。 「"欠落"現象は起きてから、まだ日が浅い。予測が立つようになったのが、奇跡みたいなものだ。とはいえ、今のところ予防も解決策もなし。巻き込まれたら、アウトだ」 「そうなの?」とやや怯えた様子な母。 「ああ。下手したら、一生隔離生活だ!」  その間、俺は黙々と朝飯を食べ続けた。  話し合う父母の声がだんだんと遠ざかる。  そんなことより、今日の俺には大事なことがあるんだ。  そう、今日は待ちに待った、体育大会の日!  何を隠そう、俺は元陸上部。  走るのは、超得意。  そんな訳で、去年の体育大会もソコソコ活躍はした訳なんだが、……借り物競争があっただなんて、聞いていない!  あの、憧れの借り物競争だぞ?!  俺のやってみたい競技第1位――俊足だけでなく、機転や交渉力、運まで試されるという、憧れの借り物競争ー!  おまけに、ちょっぴり自然に女子との出会いも期待出来るかもしれない、という可能性も。  だって、よくあるだろう?  アニメとか小説とかで。  なかなか出会いのない17才高校生男子。少し位夢見ても良いだろう。  去年は体育大会が始まってからソレを知り、心底悔しがった。  今年の俺は抜かりない。  素早く、お目当ての借り物競争の枠をGETしたさ。  涙をのんだ去年の俺に誓って、リベンジだ!   「あら、久良。ずいぶんと気合が入ってるみたいね。今日は高校の体育大会だからかしら、フフ。そうそう今日ね、お母さん、パートのお休み取れたから、ちょっと見に行っちゃおうかなー」  笑みの含んだ母の声に、少し顔をしかめる俺。 「良いよ、無理しなくても! 高校はあんまり保護者の席、ないし」 「そんなにイヤがらなくても〜。ハイハイ、分かってる。行かない、行かない」  笑いながら言う母に安心する。  高2男子としては、母親の応援なんて照れくさい。 「でも俺、今日は頑張ってくるよ! 行ってきま〜す」    そう言って、俺は玄関を飛び出した。  さあ、今日は快晴!  体育大会の開催は間違いなしだ。  待ってろよ~俺の借り物競争ー!
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