それは虹色の橋

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それは虹色の橋

何処かで子猫のか細い鳴き声がする。それもやがて途絶えるだろう。生きていけないと決められた子猫は誰かしらの口に入るべきなのだ。 そしてまた雌猫は孕み、落とすという繰り返しである。雄猫はさ迷い、声に惹かれては轢かれていく。その繰り返しなのである。 また誰かが黒い猫の前に皿を出した。食べずにいたら他の獣が集まりだした。優しい狸が餌をわけてくれた。優しい狐が水の場所を教えてくれた。彼らは病さえ黒い猫に振りかけていってくれた。 黒い猫の体に白い粉を振ったような不幸が絡み付く。 痒い痒いと鳴き出した。暑い寒いと泣き出した。腹の中では虫がわく。泥水を舐めては吐き出した。 鴉は同じ黒いものを見ては素通りした。食べる価値なしと見切って言った。 黒い猫は鳴いた。 猫の声にはほど遠かった。 人は猫を可哀がる。手に負えなくなって容易く放す。猫は自由で気紛れな質だからと理解しようともしなかった。 黒い猫の居るべき場所は何処だろう。目が潰れて世界が見えない猫は何処へ行く。 猫は鳴いた。 こうして始まりも終わりも知られないままなのだろうか。 猫なんて黒以外もたくさんいる。腐って干からびるほど無数に産まれる。それが自然の在り方なのだろうか。 猫は鳴いた。 何かに撫でてもらいたいと。もっと遊びたいと。おいしいを知りたいと。 目が潰れても、脚を数本なくしても、内蔵が破裂しても、猫は死ぬ時は死ぬし生き延びる時は生き延びる。人こそ気紛れに手を伸ばす時もあれば見向きもしない時もある。なんとも勝手でふざけた世界だろう。 これは猫にとっての話ではなく、人にとっても同じだろう? 人は目の前の世界を理解しようとしていないだけだ。 猫が鳴く。 幾度も、幾度も。 いつ鳴き声は届いただろうか。 いつ泣き声は届くのだろうか。 黒い猫が橋を渡ろうとしている。交通量の多い橋だった。 何も見えていない黒い猫は、ゆっくりと、のっそりと脚を進めた。それは朝のことだっただろうか。それとも昼? 夜? 小さな黒い猫は誰の目に止まることなく、走ってきた車に牽かれた。その次にやって来た車にも、その次の車にも牽かれた。 黒い猫は、赤黒い肉となった。
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