あいに染まり、黒に落ちる

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 同じ歳ということもあり、何かにつけて比較されてきた二人ではあったが、英泉も景藍も、互いの作品を誰よりも評価していた。つい最近まで、家を訪問し合い、熱心に創作談義をしていた印象がある。だからこそ、英泉に容疑がかかっていることが信じられなかったのだ。 『それならいいのですが。秋の展覧会は景藍先生と二人でなさるおつもりだったでしょう。まあ、景藍先生の追悼展と銘打てば、当初の想定より多くの来場者数が見込まれますが‥‥ただ‥‥』  嫌な含みを感じる声色だった。それも無理はない。美術館との間にいったん関係を結ぶことが出来れば、画家の活躍は保証される。逆に一度でも下手をうてば、すぐに悪評が広がり、大きな展示が出来なくなる。館長は、信じていると言いながらも、内心では疑っているのだろう。 「先ほどもお伝えしましたが、先生が逮捕されることはありません。安心してください」  落ち着いたらまた連絡します。そう言って、仁平は電話を切った。  フロントガラスに打ちつける雨は、先ほどより強さを増している。仁平はその様子を眺めながら、ぼんやりと思案に耽った。  英泉の話によれば、事件のあった日の午前中、景藍は英泉邸を訪れていた。病院の診察の帰りだったという。というのも彼女は半年前から癌を患っていて、いよいよ入院せざるを得ないという理由から、製作途中の『彼岸花』を英泉に託しにきたらしい。
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