あいに染まり、黒に落ちる

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 病のことを話しているのは英泉だけだと。余命僅かな自分の代わりに、この絵を仕上げてほしい。それだけが自分の望みである———と。  その申し出を受け入れ、英泉はすぐに景藍と別れた。が、その日の夜、妙な胸騒ぎを覚えて再び景藍に会いに行ったらしい。  それが二十三時ごろだったという。  鍵の掛かっていない玄関ドアを開け、英泉が景藍邸の中へ入ると、景藍は変わり果てた姿となっていた。画室で刺殺されていたのだ。しかし、整頓された部屋には凶器らしきものは見当たらなかった。英泉はすぐに警察を呼び、捜査に立ち会った。死因は刃物で腹部を切り裂かれたことによる失血死。争った形跡がないことから、警察は顔見知りによる怨恨殺人だと予想した。  一方、警察を呼んですぐ、英泉は景藍の弟子———名月(めいげつ)の姿が見えないことに気がついた。一緒に住んでいるはずなのに、この場に居ないのはおかしい。そう警察に伝えてすぐ、名月がふらりと帰ってきたのである。そして彼女は、英泉を指差してこう言ったらしい。 「お巡りさん。この人はずっと先生を妬んでいました。だから今日、先生の『彼岸花』を盗み、証拠隠滅のために殺したのです」  その証言がきっかけで英泉に殺害容疑がかかり、不審な点の多い名月も取調べを受けている。
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