責任

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 雨上がりの朝、届いた一通のメール。 「俺結婚したから」 我妻義男からだった。 半年前に出て行った男。メールがブロックされ音信不通だった。突然のことで驚きスマホを持つ手が震えた。そして怒りがあふれてスマホを投げつけた。 「落ち着け自分」 そう言って寝ている赤子に顔を向けた。気持ちよく寝ているその顔は義男にそっくりだった。 雨宿りで出会い三か月で妊娠を知った。 「子供ができたの」 「嘘、本当に俺の子か」 「あなた以外誰がいると思うの」 「あああああああ!タダでやれる女だと思っていたのに、子供ふざけるな!俺は信じない」 「だって、いつもしてなかったじゃない。生が一番だって。こうなることぐらい想像できたんじゃないの」 「うるさい!俺は関係ないからな」 そう言って出て行った。 白石良子は一人で産み育てることにした。折角授かった大好きな義男の子きっと帰ってくる。信じて半年経った。月足らずで生まれたが元気な男の子名前は自分の良と義男の男を取って良男とつけた。呼び名も一緒でよしおにした。 良子は両親の愛に恵まれず祖母に育てられた。祖母は厳しい人で早く自立するため家を出た。高校は働きながら夜学に通った。 暖かい家庭を持つことが夢だった。 そんな良子の夢を潰した義男に激しい憎悪が湧いた。 また雨が降ってきた。雷雨だ朝から稲妻が光ってものすごい音が響いた。近くに落ちたのか・・・ 川村製薬会社の令嬢が結婚したと週刊誌に載っていた。 相手は同会社の社員義男だった。 情報を得るのは簡単だ。 インターホンが鳴った。 「花屋です、お届けものです」 川村夢はフラワーバスケットを受け取った。 「義男さん、お祝いにお花が届いたわ。どなたかしら」 メッセージカードを取り上げた。差出人が書いてない。封筒も入っている。封筒を開けようとした夢の手から取り上げた。 「僕の友人からかもしれないから」 「そう、でも気になるわ何が入ってるのかしら。見ちゃだめ?」 「後でね」 そう言うと部屋へはいって行った。嫌な予感がする。封を開けると数枚の写真と手紙が入っていた。 「良男(よしお)と名を付けました。あなたにそっくりでしょ。ⅮÑAの鑑定もしたので間違いなくあなたの子です。忘れて行った歯ブラシでね」 しまった、あれをしまっていたのかすべて捨てるものだと思っていた俺の大きなミスだ。 「ねえ、開けていい」 その言葉に驚き写真をばらまいてしまった。良子との情事の写真が4枚自動シャッターで撮ったものだ。慌ててしまうとドアを開けた。 「私に見せられない物なの、お互い秘密は無しってことだったわよね」 「ごめん、旧友だったら君を驚かせる物が入っていたら大変だからね」 「どういう事、友達でしょ。だったら変なもの送ってこないと思うわ」 「悪友だったからね、君が驚いてお腹の子になにかあったら大変だと思って」 いぶかしげな感じで夢はまじまじと義男を見た。 「見せて」 手を出したので写真を一枚渡した。 「あら、可愛い。ちょっとあなたに目元が似てるかしら」 そう言って写真の裏を見た。良男一か月と書いてある。 「あなたと同じ名前ね。平仮名にしたら。どうして隠そうとしたの、もしかして旧友って女性?この子の父親あなたなの」 「そんなはずないだろう、赤ん坊なんてみんな似たような顔をしてるもんだよ。こいつは自慢したいがために送ってきたんだ。年賀状なんて最たるものだろ」 「そう言えばそうね」 「夕飯を食べよう、お腹すいたよ」 まだ本格的な悪阻がないので夕餉を済ませた。通いのお手伝いが家事をしてくれている。 ベッドに入ってもなかなか寝付けない義男。 間違いなく良子の仕業だ。あの大人しく俺に従順だった女。待ちぼうけさせるのは流石に悪いと思いメールしたのが間違いだった。始末するしかない。明日の朝秘書に頼もう。 義男は副社長になっていた。夢の父親が社長で会長が祖父の家族経営の会社である。夢の気を引くためあらゆる手を使って今の座を手に入れた。 この手を汚しても守り抜く。そう決心すると眠りについた。 翌朝、夢を起こさないようベッドから抜け出し着替えた。昨日ポケットに入れたジャケットを着て会社へ出かけた。 秘書が待っていた。良子の住所を教え事故に見せかけて殺すよう頼んだ。 野口は忠実な部下だった。夢との件でも協力してくれた。報酬をしっかりはずんだ。 部屋で待っているとスマホが鳴った。 「白石良子は住んでいません。近所の人に聞いても分からないとのことです」 「ありがとう。戻っていいよ」 「一体何処へ行ったんだ。帰る実家などないのだから」 考えていると、スマホが鳴った。 「旦那様、奥様が倒れました。お帰り下さい」 「わかった、すぐ帰る 家に着くと夢がベッドで横になっていた。 「一体何があったんだ?」 「宅配がありまして、奥様がお出になりました。私は掃除をしていましたので、奥様の悲鳴で駆け付けますと段ボールを指さしましてなにか言ってるのですが聞き取れず、自分も中を見ましたらビックリです。赤ん坊の人形が真っ赤な血で・・・奥様はショックを受けて流産なさいました。申し訳ございません」 良く見れば赤い絵の具にペンキが上手く混ざっていてちょっと見れば勘違いしてしまう。宅配なのだから送り主が分かるはず。これはキッズ専用店の箱直接店の者が届けに来たのか・・・ お手伝いの人を叱っても仕方ない。計画的か・・・ 「今日はもう帰っていいよ、僕がいるから」
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