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 親戚の赤ん坊を見ているかと思いきや、頬をつねって泣かせる。  気弱な同級生を突き飛ばし、泣いている顔を見てケタケタと笑い出す。  そのような前例を奥さんによる報告で知ったAさんはもし犬を飼い始めて、矛先を向けるようになってはいけないと危惧している。  Aさん自身も犬が好きで、幼い頃にミックス犬を近所から譲り受けて「相棒」みたいに過ごしていた時期もあった。  だからこそ、息子さんの願いは叶えることはできない。  飼わないことで危険を回避できれば、犬にとってもそれにこしたことはないからだ。  不幸な生命をあえて増やす必要などないし、それを助長することはしたくない。しごく真っ当な意見であり、私も賛同する。 「もしかしたら、お友達が飼っている犬に……という想像もしてしまい、父親として問いただしたいとは思うのですが、今年から昇進したため、なかなか時間が作れなくて」  もごもごと言い訳のようにつぶやいたAさんは、スマホに録音したという息子さんの声を再生してくれた。    
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