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「フェリシア!」
私の意識を引き戻したのは、よく知ったお声だった。
気がついたら、私はオーウェンさまの腕の中に抱きしめられいた。
「オーウェン、さま……?」
オーウェンさまと目が合うと、オーウェンさまはホッとしたように息をつかれた。
オーウェンさまの美しいお顔が、す、すごく近い……。こんなに至近距離で見つめ合うのはもちろん初めてで、ドキリとしてしまう。思わず目をそらしてしまったけど、オーウェンさまは私を抱きしめたまま。見た目よりもしっかりと筋肉がついていて、硬い腕の感触にドキドキしてしまう。うぅ、どうしよう。……って、今はそんな場合じゃなかった。
「オーウェンさまはどうしてここに?」
オーウェンさまの腕からやんわりと離れ、彼を見上げる。
「悪霊退治の依頼を受けたと聞いたから、気になって見にきたんだ」
それは、私を心配されて? それとも、私が何かやらかさないか見張るために?
「本当にいたとはね」
オーウェンさまは、誰もいない窓の方をしっかりと見据えていた。
「オーウェンさま、もしかして見えるのですか?」
オーウェンさまが無言で頷かれる。
私には声だけ聞こえて、姿形は見えないのに、オーウェンさまには何かをご覧になっているんだ。やっぱり私よりもオーウェンさまの方がずっと魔力が強いんじゃないのかな。
オーウェンさまは見えない何かから守るようにして、私の前にお立ちになった。
「消滅させる」
そして、オーウェンさまが右腕を窓に向かって伸ばす。オーウェンさまの手から黒い炎が伸びていき、窓の辺りでゆらめく。
『きゃああああ!』
何が起こっているのか私には全く見えないけど、女性の悲鳴が上がる。
黒い炎が消える間もなく、オーウェンさまがもう一度腕を振り上げた。ハッとして、私はオーウェンさまの右腕にすがりつく。
「お、お待ちください!」
「何で止めるの」
「事情は存じ上げませんが、きっとそんなに悪い霊ではないと思うのです」
姿は見えなくても、私は彼女の悲しい声を聞いてしまった。あまりに悲痛で苦しそうな彼女を救ってあげたいと思ってしまったんだ。
「塔で体調が悪くなった方はたくさんいても、死者は一人も出ていないと聞きました」
もう大昔のことだから、真実かは分からない。けれど、伝え聞いている限りでは、死人や重症者が出ていなかったもし本当に誰かを傷つけるつもりがあるのなら、とっくにそうしているはず。彼女の心残りをどうにかして無くしてあげれば、きっと――。
「消滅ではなくて、浄化させてあげたいんです」
無礼だとは承知の上で、私はオーウェンさまに必死に頼み込んだ。
「消滅させた方が手っ取り早いのに」
口ではそう言いながらも、オーウェンさまは腕を下ろしてくださった。
「フェリシアがそう言うなら別に良いけど、出来るの? 浄化には、消滅よりも高等な魔術を使う必要がある」
「えっと、それは、その~……」
えらそうなことを言っておいて、出来ませんでは話にならないよね。オーウェンさまから厳しい視線を投げかけられ、私は思わず目を泳がせてしまう。
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