3、悪霊退治

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『あなたたちは愛し合っているのね』  私たちの間に割って入るように、女性の声が窓の方から聞こえた。完全に彼女の存在を忘れていた。それより、ものすごく誤解されているような。 『私たちは身分違いだと引き裂かれたのに、どうしてあなたたちは一緒にいられるの』 「時代が違うんだ」  私が何か言う前に、オーウェンさまがお答えになった。 「今は身分差があっても、昔ほどとやかく言われない」  今も大抵は同じような身分の方同士で結ばれることが多いけれど、貴族と庶民の結婚だってそうめずらしくもない。けれど、私たちが生まれるよりも前は身分差に縛られ、好きな人と結婚出来ないことも多かったみたい。駆け落ちをしたり、なかには好きでもない人との結婚を苦に自死を選んでしまう人もいたとか。  彼女も、身分違いの悲劇の恋をした一人だったのかな。 「うらやましいわ。私も今の時代に生まれたかった」 「そう思われるのなら、生まれ変わって、もう一度恋をされるのはいかがでしょう」  私は窓の辺りにいるだろう女性を思い浮かべ、話しかける。過去世の記憶を持った人も時々いると聞くし、強い気持ちで望めば、きっと生まれ変われるはず。 「私にも出来るのかしら」 「出来ますよ。あなたは人を殺していない。今からだって、まだ遅くありません」  笑顔を浮かべ、彼女を勇気づける。 「ありがとう。生まれ変わって、もう一度あの人と恋がしたいわ」  あれ? 彼女の声が遠ざかっていっている? 「行ったね」  しばらくして、オーウェンさまがポツリとつぶやかれた。 「どこにですか?」  オーウェンさまの方に顔を向ける。オーウェンさまは目線を下げ、小さく首を横に振った。 「さあね。とにかくここからいなくなったのはたしかだ」 「どこに行かれたのでしょうか。もう一度好きな人と出会えたら良いですね」  彼女の魂の行方を思い、窓の外を見つめる。 「やっぱり思った通りだったよ。フェリシアは立派な魔術師になったね」  ふと見上げると、オーウェンさまが懐かしむような目で私をご覧になっていた。  魔術も何も、私は何もしていない。先ほども、今までも、ほとんどオーウェンさまのお力だ。だけど、オーウェンさまは他の方に魔術を使えることを知られたくないのかもしれない。昔ほど迫害はされないとはいえ、今だってまだ偏見はあるのだから。 「エセ魔術師ですが」  ありのままを答えたら、オーウェンさまがおかしそうにお笑いになった。  たまにしか見られないオーウェンさまの心からの笑顔がやっぱり好きだと思う。    私よりも一つ年下なのに、ずっとしっかりされていて。冷めているように見えて、本当はお優しい。オーウェンさまは憧れの対象で、好きなんて考えないようにしてた。でも私、きっと初めて会った時からオーウェンさまのことが――好き。  そんなことを打ち明けられるわけもなく、オーウェンさまの横顔を見つめ、私は一人でドギマギしていた。
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