1、王宮お抱えのエセ魔術師やってます

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「何してるの?」  考えごとをしながら身を屈め、第二書庫の本棚の下を覗き込んでいたら、緑色の瞳と目が合った。 「きゃあっ」  第二書庫に入ってきた時は、誰もいないと思っていたのに。とっさに飛び起きる。すると、相手の方も同じようにしたみたいで、10センチ以上は高い位置にあるお顔が私を見下ろしていた。  プラチナブロンドの髪。涼しげなエメラルドグリーンの瞳。少し冷たい印象だけど端正な顔立ちの男性は、第三王子殿下のオーフェンさまだった。  以前伺った話によると175センチはあるらしいけど、今はもう少し背が伸びたのかもしれない。最近新調された、黒襟と金色ボタンのついたグレーの軍服がよくお似合いだった。  何度拝見しても、私が子どもの頃に小説を読んだ時にイメージしていた王子様みたいな方だと思う。本からそのまま出てきたみたいな理想の王子様。 「オーウェンさま」  オーウェンさまを拝見すると、自然と顔が熱くなってしまう。気づかれていないと良いのだけれど。 「ここは寝るところじゃない」  オーウェンさまがため息まじりにおっしゃった。またみっともない姿をお見せして、呆れられてしまったかも。 「ミーシャさまの行方を占おうと思っていましたの」  あわてて笑顔を作って、取り繕うように申し上げる。 「ミーシャ?」 「宰相令嬢さまの愛猫さまです」 「占うために、書庫の床に這いつくばる必要があったんだね」  オーウェンさまはさっきまで私が這いつくばっていた床に視線を落とされ、もう一度私の顔を注視される。……うっ。 「ええ、それは、その、猫の気持ちになりきる必要があったんです」  苦し紛れに言い訳をして、笑って誤魔化す。 「へぇ。大変そうだね」  オーウェンさまは私をお見つめになられたまま、そっけなくおっしゃった。  オーウェンさまの緑色の瞳は全てを見透かすかのようで、時々全てご存知なのではないかと思ってしまう。でも、もしエセ魔術師だとバレていたら、とっくに私は王宮を追い出されているんだろうけど。 「そうなのです。では、私はこれで……」  これ以上話していたら、ボロが出そう。オーウェンさまに背を向け、そそくさと立ち去ろうとする。 「それで、どんな猫なの?」  けれど、後ろから声をかけられ、振り向く。 「イエローとブルーのオッドアイで、首に赤いリボンを巻いた長毛の白猫さまです」 「その猫なら、見かけたかもしれないな」  言いながら、オーウェンさまは本棚の裏に移動された。――と思ったんだけど、裏側にもお姿が見当たらない。 「オーウェンさま?」  どこにいかれたのだろう。  キョロキョロと辺りを見渡してみても、オーウェンさまがいらっしゃる気配もない。
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