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「いたよ、フェリシア」
「ひゃあっ」
なぜか前からオーウェンさまが現れて、身体がビクリと飛び跳ねた。どうしてそんなところから……。
不思議に思いつつ、二度見する。
オーウェンさまは、白猫のミーシャさまを抱えていた。オーウェンさまの腕の中に、フワフワの白猫。あまり想像出来ない組み合わせなのに、なんだか――。
「か、かわ……」
うっかり『可愛い』と口走りそうになってしまった口を、あわてて両手で押さえる。
「この猫で合ってる?」
オーウェンさまはそんな私を不審な目で見ながらも、そう質問された。
「ええ。宰相令嬢さまもきっと安心なさいます」
ずっと書庫に隠れてたのかな。とにかく見つかってよかった。私は大きく頷いてみせる。
「猫は苦手だから、早く受け取って」
苦手と言いつつ、ミーシャさまを抱くオーウェンさまの手はお優しい。
オーウェンさまから渡されたミーシャさまをそっと抱き抱える。小さな声で『ニャー』と鳴いただけで、何の抵抗もなく、腕の中におさまってくれた。
お利口で、可愛い猫だ。ちょっと王宮の中を散歩していただけだったのかな?
オーウェンさまに頭を下げて、今度こそ立ち去ろうとする。
「それと、またフェリシアの意見を聞かせてほしい」
私が踵を返す直前、オーウェンさまはそうおっしゃった。
「時間が空いた時でいいから」
私がお答えする前に、彼は言葉を重ねる。
「私でよろしければ」
ミーシャさまを抱えながら、返事をした。
他の王宮の方と同じように、オーウェンさまからのご相談も時々受けることがある。オーウェンさまからのご相談は他の方々とは少し違っていて、彼が携わられている外交や内政の話がほとんどだった。
オーウェンさまは、とても聡明なお方だ。私よりも一つ年下なのに、そうは思えないほどしっかりしていらっしゃって、いつでも冷静で。
正直私のような政治のせの字も分からない者の意見なんてわざわざ聞かなくても、とは思うのだけど。『政治に関わっていない人の意見が聞きたいから』と、なぜかよく私にお声がけくださる。
大変光栄でありがたいことではあるものの、もう白魔術なにも関係ないような……。
オーウェンさまのことは昔から存じているのに、いまだにお考えが理解出来ない。女性にもそっけなくて政治以外は興味はなさそうなのに、不思議と私には話しかけてくださるのはどうしてなのかな。
やっぱり白魔術師としての技量を疑われていて、私をはかられているのかな。私が魔術師として王宮に招かれたのはオーウェンさまがきっかけだったから、責任を感じられているのかもしれない。
オーウェンさまと初めてお会いしたのは、今から八年前。オーウェンさまは十歳、そして私は十一歳の時だった。
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