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「あの時欲を出しすぎなければ、今も王宮で暮らせていたのに」
手は止めないまま、お母さんは嘆き続ける。
今は王宮からはるか遠く離れた何もない田舎でひっそりと暮らしているけれど、こう見えてお父さんとお母さんは貴族だったらしい。それもただの貴族じゃなくて、王宮でも大きな権威を持っていた、とか。
けれど、うっかり調子に乗りすぎちゃったみたいで、度重なる散財とパーティーや政治での失態で他の王侯貴族たちの怒りを買い、王宮を追われることになったそう。
お母さんとお父さんは、王宮での華やかな暮らしに未練があるみたい。何かにつけて思い出話をして、今も昔を懐かしんでいた。
こんな暮らしをさせて私やエリザにも申し訳ない、といつも言っている。
「お父さんもお母さんも可愛い妹もいて、十分過ぎるぐらい幸せだよ」
お母さんのそばまで歩いて、そっと寄り添う。
小説に出てくるお姫さまや貴族令嬢には、わたしも憧れたことがある。華やかなドレスと美しい宝石、おいしいお菓子が用意されたティーパーティー、素敵な王子さまとの恋。きっと素敵だと思う。
私にとってはそれらは全て物語の中だけの世界で、ここが現実。お母さんたちの話を聞いていても、もしかしたら自分が王宮で暮らしていたかもしれない――なんてピンと来なかった。
「フェリシアは本当にいい子ね」
お母さんは、わずかに涙のにじんだ目頭をそっとおさえる。
「手伝えることがあったら、何でも言ってね」
「それなら、水汲みをお願いしようかな」
「分かった。言ってくるね」
立ち上がり、家のドアを開ける。
家の外に置いてある水汲み用の桶を持ってから、井戸に向かう。けれど、日照りが続いたせいか井戸の水はほとんど残っていなかった。
ここの井戸は村のみんなが使うものだし、もともと枯れやすい。そんな時は足を伸ばして、洞窟に行くんだ。
村からは少し遠いけど、水や薬草もあるし、とってもいいところ。洞窟に行くのは、二ヶ月ぶりぐらいかな。
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