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洞窟の中を少し歩いていたら、背中を向けて立っている男の子がいた。
「わっ」
誰か来てたんだ。びっくりして、思わず持っていた桶を落としてしまう。私の声と桶の音で気がついたのか、男の子がゆっくりとこちらを振り向く。
村の男の子かなって思ったのに、もう一度見てもやっぱり知らない子だ。身長もほぼ同じで、私と同じ年ぐらいに見えるのに、服装も村の子たちとは違っている。それに雰囲気も――なんだか、王子様みたい。
私が何度も小説を読んで想像していた王子様そのもので、男の子から目が離せなくなってしまう。こんなにキラキラした子、本当にいるんだ。
薄暗い洞窟の中でも輝いているプラチナブランドの髪が、すごく綺麗。それにエメラルドグリーンの瞳は、町で一度だけ見た宝石みたい。
「えっと、はじめまして、かな? 最近引越してきたの?」
「転移魔法を使ったら、ここにいた」
一瞬耳を疑っちゃったけど、男の子は確かにそう言った。
「転移魔法?」
転移魔法って、ワープのこと?
「すごい、すごい!!」
「魔法使いなの?」
「他にはどんな魔法が使えるの?」
攻撃魔法や転移魔法を使える魔法使い、さらには魔法以外にも占いも出来る魔法使いの上位互換の魔術師。
そういった人たちがいるとは噂に聞いたことがある。だけど、実際に会うのは初めてだ。
興奮して、思わず質問攻めにしてしまった。
男の子は若干うんざりした顔をしながらも、右手をわずかに上げた。そうしたら、男の子の手のひらから大きな炎がぼうっと上がる。
「わあ! あなたの魔法、かっこいいね」
「かっこいい……?」
金髪の男の子は、不思議そうな目をこちらに向けた。
「そんなこと、初めて言われた」
こんなにかっこいいのに、どうしてみんなそう言ってあげないんだろう?
「きっとすごい魔法使いになるね」
「魔法使いになんかなりたくない」
男の子は火を消して、腕を下げる。
「どうして? かっこいいのに」
「僕が使えるのは白魔法じゃなくて、黒魔法だから」
男の子はうつむき、ため息混じりに言う。
白魔法や白魔術は神聖で、尊敬されるもの。黒魔法や黒魔術は怖くて、あまりイメージが良くないもの。黒魔術を呪いに使ったり悪いことをしたりする人が昔多かったから、そういう風に思う人が今も多いのは私も知っている。
だけど、それって使う人がたまたま悪かっただけだし、黒魔術や黒魔法には罪はないと思う。魔法も魔術も使えない私からしたら、白でも黒でもかっこいい。
「関係ないよ。だって、すごくかっこいいもん」
「本当にかっこいいと思う?」
男の子が窺うように私を見る。
「うん!!」
私は持ち上げた両手を握って、力強く頷く。
そうしたら、男の子はわずかに笑みを浮かべる。
わあ、笑ってくれた。
綺麗なエメラルドグリーンの瞳から目が離せなくなって、なんだかドキドキする。もっと笑ったらいいのに。
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