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1、王宮お抱えのエセ魔術師やってます
王宮の第一書庫から本を借り、大階段を登って自室に戻るところだった。
「フェリシア、ちょうどいいところに」
二階にいらっしゃった宰相令嬢さまからお声をかけられる。たくさんのお召しものをお待ちの宰相令嬢さまは、今日は繊細な刺繍が施されたブルーのドレスをお召しになっていた。
「あなたに依頼があるの」
宰相令嬢さまは目配せして、視線だけで私をお呼びになる。
「すぐに参ります」
二冊の本を右脇に抱え、フカフカの赤絨毯が敷かれた階段を早足で駆け上がっていく。
ゆるく編んで、両サイドに垂らしたピンク色の髪が胸元の辺りで揺れる。紫の紐で編み上げた七分袖の黒いドレスの上には、紫のリボンが結ばれたフード付きローブ。ややタレ目な瞳は、白魔術師に多いらしいアクアブルー。
見た目だけなら、私は魔術師そのもの。実際に、私は王宮お抱えの白魔術師として雇って頂いている。
そのおかげで、子どもの頃は小説で得た情報で空想するしかなかった場所に今の私は住んでいた。
見上げるほど高い天井からは大きなシャンデリアがいくつかぶら下がっていて、金色で装飾された丸窓がぐるりと並んでいる。その下にはクリーム色の壁と柱があり、反対側に金の手すりがあった。
もう八年も暮らしているからだいぶ慣れたけど、やっぱりいつ見ても豪華だよね。
「急に声をかけてごめんなさいね」
手の届く距離まで近づくと、宰相令嬢様の手が私の肩にそっと置かれる。宰相令嬢様は女性の中では背が高めで、160センチの私よりも10センチほど目線が上だった。
「とんでもございません。いつでもご用命ください」
私は小さく首を横に振り、ニコリと微笑む。
いつどんな時でも、王宮のみなさまのお困りごとを解決するのが、王宮魔術師である私の役目。ご依頼を拒否する権利はあっても、断る気なんて全くなかった。
「愛猫のミーシャがね、昨日からいなくなってしまったの。探してくれないかしら」
宰相令嬢さまは頬に手を当て、ため息をつかれた。
ミーシャさまといえば、宰相令嬢さまがとても大切にされていらっしゃる白猫さま。さぞご心配されていることでしょう。
白魔術師とはいっても、平和なこの国では戦いの場に駆り出された前例は、ここ数百年の間一度もないらしい。
今の王宮お抱え魔術師の主な仕事は、みなさまの相談役。恋占いから猫探しまで、ありとあらゆるお悩みが白魔術師の私に持ち込まれていた。私にお声をかけてくださるなら、どんなご依頼だって全力でこなすつもり。
「おまかせくださいませ。行方を占ってみます」
「ありがとう、フェリシア! あなたって、何ていい人なの」
宰相令嬢さまが私の両手をぎゅっと掴まれる。良心がわずかに痛んだけど、どうにか笑顔を保つ。
「見つかったら、すぐにお連れします」
「お願いね」
もう一度頷いて、私はその場から失礼させて頂く。
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