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「アデル、大丈夫?」 「ええ、問題ありません。少しびっくりするような話をされただけです」 「そっかあ。もしかして、僕が話したこと、伝わっちゃったのかな?」 「なんのことでしょうか」 「さっき、アデルのおじいさまたちとお話をしていたでしょう。本当はね、今日のお茶会に参加したくなかったんだ。アデルが、お兄さまたちのことを見るのが、僕、嫌だったの。それに、隣国の王太子殿下も来ているはずだし。みんな、僕よりも大人だから」 「まあ、私はトーマスさまの婚約者です。目移りなんてするはずがございません」 「それならいいんだけど。アデルはこの婚約に乗り気じゃないような気がしていたんだ」 「残念なことに我が家の女性陣は、男の趣味が大層悪いようなのです。ですから、結婚そのものについて少しばかり不安がありました。でも今は、トーマスさまと一緒にいたいと思っております。トーマスさまと一緒なら、きっと毎日笑って過ごせそうです」  大きな瞳を潤ませながら私を見上げてくるトーマスさま。本当なら隣国の王女殿下に彼の隣を譲るべきなのかもしれない。それでも私は、ここにいたい。だから少しだけ、「こうすべき」という思考をやめてみようか。年上として彼を導き、いつかその手を離すかもしれないという考えは捨てて、彼の隣で過ごす未来を考えてみたら、なんだか温かい気持ちになった。 「トーマスさま。週末、また我が家にいらっしゃいませんか。お話したいことがたくさんあるのです」 「わあ、僕、嬉しい! 僕ね、アデルと一緒にいることが何より幸せなんだよ」 「ふふふ、ありがとうございます。私も、トーマスさまと一緒におしゃべりする時間が大好きですよ」  嬉しそうにはしゃぐ婚約者にぎゅうぎゅうと抱きしめられる。一緒にお茶をすることが、そんなに嬉しかったのだろうか。四つも年下だと線引きしていたはずなのに、いつの間にかずいぶん力強くなった。ずっと一緒にいたはずなのに、私たちはお互い知らないことがたくさんあるような気がする。これからトーマスさまと、もっとたくさん話をしてみよう。  おばあさまやお母さまのように、周囲に何かを言われても「夫は私にぞっこんだから大丈夫よ」と笑い飛ばせるように。
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