17人が本棚に入れています
本棚に追加
黒の帰路
チェックアウトの朝。
フロントで手続きを終えた私達を、昨日同様スタッフの人達が入口前でお見送りしてくれた。
「ありがとうございました! またのご利用をお待ちしております!」
ドスの利いた声に見送られ、支配人自ら運転する黒塗りの高級セダンに乗り込んで、港へと向かった。結局、最後まで大幹部待遇だったな。
「お客様、当ホテルはいかがでしたでしょうか?」
「とっても楽しかったですよ~、クロノホテル」
「Crni Hotelだって! 失礼でしょ!」
麗奈ってば、盛大に跡を濁してくれちゃうんだから。
「いえいえ、お気になさらず。改名をすべきかもしれません。❝せるに・ほ~てる❞にひらいてみましょうか」
「そういう事じゃないと思いますよ」
支配人さんがこの感性なら、このホテルはずっと謎ホテルのままだろう。なんだかホッとした。
車は5分もかからず港へ着き、車から降りた私達を支配人さんが船の前まで見送りにきてくれた。
「この度のご利用、誠にありがとうございました。どうぞお気を付けて!」
「ありがとうございました~。お弁当開けるの楽しみにしてま~す!」
麗奈の腕には、女将さん特製ののり弁当が入った包が抱えられていた。
「どうもありがとうございました。……また来まーす!」
私も大きな声で返して、船に乗り込んだ。
帰りの船に揺られながら、今回の旅の事を思い出した。
最初はどうなる事かと思ったけれど、❝終わりよければすべてよし❞かな。
それにしても不思議な感覚だ。黒といえば威厳があって隙のないイメージなのに、あのホテルは❝隙だらけの黒❞。でも、そんな黒がたまらなく好きだ。
「また行きたいな……」
対岸に着くまでの間、目を閉じて黒い闇の中に浸る事にした。
最初のコメントを投稿しよう!