黒の夕べ

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お待ちかねの夕食は、子供からお年寄りまで楽しめるバイキングだ。ホテルの評価を左右する大事なポイントだけれど、やはり❝黒のホテル❞だけに、他とは違った。 お寿司や唐揚げ等の通常メニューもあるが、黒にこだわったメニューが目を引いた。黒鯛と野菜の蒸し焼きに黒にんにくのアヒージョ・ブラックタイガーとイカスミのパスタにタコと黒豆のサラダ。なんとこれらは、アチア風の料理らしい。ちなみに、デザートは黒ごまプリンにアイスもあった。 「お料理みんな美味しいし、お酒も沢山あるし最高だね~」 麗奈は黒ビールに黒糖焼酎、コーヒーリキュールを使ったカクテルを代わる代わる飲み比べている。連れて来た甲斐があったなあ。 お腹は大満足の夕食だけれど、ひとつ不満があるとすれば、外が暗過ぎて景色が楽しめない事だ。 オーシャンビューの天敵は夜の帳だ。照らす物の無い夜の海は真っ黒に染まり、不気味で退屈な物へと変わってしまう。 ──ヒュ~~~~!ドン!パラパラ……── その時、何かが飛んで弾ける音とともに、窓の外が眩しく光った。 花火だ! 色とりどりの火炎玉が、漆黒のスクリーンをバックに煌めく様子は圧巻だ。私をはじめ、会場のみんなが食事の手を休めて窓の外を食い入るように眺めた。 「いかがでしょう、お楽しみ頂けましたでしょうか?」 支配人の黒崎さんが私達のテーブルにやってきた。 「はい、すっごく綺麗な花火ですね!」 「いえいえ、花火はあくまで黒い夜空を引き立てる為の物、今宵の主役は漆黒の夜空と海でございます。色とりどりの花火の光を浴びて、黒が刹那に色を変える様をご堪能下さいませ」 まさか、花火じゃなくてバックの空と海の方を注目して見るとは。変な趣味のような風流な見方なような……。 「いや、違いがわからないんですけど……」 「そう思いまして、こちらのチャートをご用意致しました。どうぞお使い下さい」 そう言って手渡されたのは、黒ばかりが何十色も載っているチャート表。カラーコーディネーターじゃないんだから……。 よし、こうなったら全力で黒を楽しもう! 花火瞬く夜空をしっかりと目に焼き付けて……、 「あれは……❝黒橡(くろつるばみ)!❞」 「いえ、あちらは❝濡烏(ぬれがらす)❞の方が近いかと」 「じゃあ今のは絶対❝呂色(ろいろ)!❞絶対呂色!」 「正解でございます」 「じゃあ次! ❝檳榔子黒(びんろうじぐろ)!❞」 「優子、時々変なスイッチ入るよね~」 こうして変なテンションのまま、バイキングの時間はあっという間に過ぎていった。
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